元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
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『ナミヤ雑貨店の奇跡』  東野 圭吾
2017-03-13 Mon 23:31
ナミヤ雑貨店の奇蹟
ナミヤ雑貨店の奇蹟
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東野 圭吾
角川書店(角川グループパブリッシング) (2012-03-28)
売り上げランキング: 16,458

 1970年代に、どんなくだらない悩み相談にも必ず真剣に返事をくれることで有名になったナミヤ雑貨店。小学生達の些細な悩みに乗るうちに、次第に真剣な悩みも舞い込むようになってきた。悩みを書いた手紙をポストに入れると、返事は翌日裏の牛乳箱に入っているという。
 悩み相談に応じていた店主が亡くなった三十数年後の命日、一晩だけナミヤ雑貨店が過去と繋がる。居合わせたコソ泥3人組は、その奇跡に巻き込まれていく。


「回答は牛乳箱へ」
 敦也・翔太・幸平の3人は、悪事を働いて逃走中に車が故障し、廃屋と思しきナミヤ雑貨店に一時的に身を潜める。夜明けを待って逃走するつもりでいたが、シャッターのポストから「月のうさぎ」と名乗る女性からナミヤ雑貨店宛てに相談事が書かれた手紙が投げ込まれた。
 オリンピックを目標に頑張っているが、恋人の不治の病が発覚した。恋人の傍にいたいが、恋人は2人の夢だった自分のオリンピック出場を望んでいる。自分はどうすべきかという質問に、幸平に引きずられるようにして他の2人も真剣に考え始める。自分達なりに真剣に考えて出した答えにすぐ返事が来たことで、3人は異常を感じ始めた。

 最初の数行から、自分がのめり込むのを感じた。ものすっごい勢いで惹き込まれる。コソ泥に失敗した3人のもとに変な悩みが舞い込むという設定だけでもちょっとワクワクするのに、雑貨店内だけ時間に異変が起こってるって設定が面白過ぎる。ちょっと愚鈍そうな幸平、お人好しっぽい感じの翔太、冷静沈着ながら2人を放っておけないリーダー格の敦也のトリオもいい感じの凸凹感があって憎めない。
 何度かの往復書簡が終わってちょうど収まり良く、まあこんな解決が妥当でしょって所で終わったと思ったらすぐに次の手紙が舞い込んで来たところで第一章は終わり。でもこの第一章は本当に始まりに過ぎなくて、妥当な解決どころじゃなかった。


「夜更けにハーモニカを」
 ミュージシャンを目指して上京したものの上手くいかずに才能の限界を感じていた松岡克郎は、祖母が亡くなったために久し振りに実家に帰る。実家の魚屋を継ぐべきではないかという考えが段々と濃くなっていく中、ナミヤ雑貨店が今でも悩み相談に乗っていった。さっそく知り手紙を書いたが、その返事は辛辣なものだった。
 父の後押しもあり東京に戻った克郎は、児童養護施設「丸光園」に慰問演奏でセリという少女に出会う。彼女は克郎がハーモニカ演奏をした『再生』という曲を気に入ったようだった。

 主人公が変わったのはすぐにわかったから、ナミヤ雑貨店の話は1話だけだったのかとちょっとがっかりした。もう少し第一章の3人の視点でナミヤ雑貨店を見ていたいと後ろ髪引かれつつ読み進んだら、克郎が受け取った返事がどう見てもあの3人が書いた物だったから安心。
 夢を追う青年のよくある話かと思いつつも、ナミヤ雑貨店の前でハーモニカ演奏をした後の返事にはちょっと嬉しくなった。克郎、遅咲きなのかーと思ってるとこのラスト。もうね、感動するよね、この物語の絡み具合。


「シビックで朝まで」
 貴之の父親・雄治はナミヤ雑貨店を営みながら、相談事にも真剣に向き合って返事を書くことを生き甲斐にし、貴之に同居を持ち掛けられても断っていた。しかし体調が思わしくなくなり、息子家族との同居を決意する。
 間もなく、雄治に末期の肝臓癌が見付かり入院生活を送るある日、病床の雄治が一晩だけナミヤ雑貨店に戻らせてくれと頼んで来た。何十年後か先からの手紙が受け取れるはずだと言う。そのために、自分の三十三回忌前に「ナミヤ雑貨店に相談をし、回答を得た方々の忌憚ない意見を手紙に書いてシャッターの郵便口に入れて欲しい」という旨の公表をして欲しいという遺言書を渡した。

 ナミヤ雑貨店の店主だった人はどんな人だったんだろうか、その人に不思議な力があったんだろうか、という疑問が、こんな中盤であっさり解決するなんて。その事にまず驚き。
 父親が頑固を貫こうとしても、奇妙な我が儘を言っても、大して反論することなく付き合っている貴之が優しくて、わけがわからなくてもネットに情報を流す協力をする貴之の孫・駿吾も優しくて、その優しさが奇蹟の一端を担ってることに無駄に感動した。
 妻子持ちの男性と不倫関係の挙句妊娠した女性の相談に乗ったものの、その女性と思しき人物が車ごと海に落ちて赤ん坊だけが助かったという新聞記事から同居を決意したようだったけど、その女性の娘からの手紙で事故だった事が判明する。しかもその人、二章で歌手になったセリと同じ児童施設で育ち、今はセリのマネージャーしてるとか。それから、雄治の死後にナミヤ雑貨店に来た貴之が、かつて相談に乗ってもらったというフェンシング選手の女性に声を掛けられたりとか。前に書かれていた出来事が、ただ通り過ぎるだけじゃなくこの後も響いてきそうな予感がして、読んでて胸が高鳴った。ただチラッと現状を見せただけじゃないに違いない、東野さんは凄い人だから、きっとこの後も絡んできて感動させてくれるに違いない。この後の章でこの期待が当たり、一人で盛り上がった。


「黙祷はビートルズで」
 ナミヤ雑貨店が一夜だけ感想を受け付けるという情報を知って訪れた和久浩介は、近くにあったビートルズ専門の音楽バーで手紙を書くことにする。
 彼はかつて裕福だったが、父親の事業の失敗から夜逃げすることになり、ナミヤ雑貨店に相談したことがあった。夜逃げの最中に父親のことが嫌になって長距離トラックに潜り込んで逃走し、そのまま黙秘を貫いて児童施設に入り、別の戸籍を取得していた。
 彼は自分の人生を自分で切り開いていったつもりでいたが、偶然入ったバーがかつての同級生の妹が営むバーであり、自分の両親が夜逃げした二日後に心中したことを知って愕然とする。

 熱烈なビートルズファンである浩介についていけず、『レット・イット・ビー』やら解散の話やら、ちょっとうんざり気味で読んだのは、まあ仕方ないから置いといて。
 両親、本来なら夜逃げ後はどうするつもりだったんだろうか。まさか、3人で心中するつもりだったわけでは?それとも、浩介がいたからこそ、どこかでひっそりとやり直すつもりでいた?その辺が不明のままで、読んでいてこっちまで苦しくなった。。
 育った児童施設は『丸光園』。これまでは、小さくはないって程度の存在感だった児童施設が、ナミヤ雑貨店と並ぶキーワードになってきた事が感じられる章だった。
 種明かしの順序やテンポが絶妙過ぎて、息を飲むことが増えてきた中盤章だった。
 浩介が手紙を入れに行くシーンで、セリのマネージャーと思われる女性と遭遇したシーンが私的にはツボ。一瞬警戒した様子を見せた女性に対して、手紙を見せてシャッターを指さす。それだけで赤の他人と通じる世界を、雄治が作ったんだと思うと感動が込み上げてくる。


「空の上から祈りを」
 敦也・翔太・幸平の3人は、スマホで一夜限りのナミヤ雑貨店復活の話を知った。その事が奇妙な現象の原因だと考えて出て行こうとする敦也だったが、他の2人は明け方までいたいと言う。そこへまた、相談事が投げ込まれた。
 「迷える子羊」と名乗る女性は、丸光園で小6まで育った自分を引き取ってくれた親戚に恩返しがしたいために会社員を辞めて水商売をしたいと言う。どうすれば周囲の理解を得られ、会社を穏便に辞められるかという相談だった。
 武藤晴美は、近所に住む年上の友人・北沢静子からナミヤ雑貨店の話を聞いて「迷える子羊」と名乗る手紙を出していた。叱咤の返事に苛立ちながら反論の手紙を書き返していたが、最後の手紙は未来を予言しているとしか思えないアドバイスだった。

 3人の視点から急に晴美の視点になったから若干戸惑った。そして、すぐには気付かなかったけど前の章で火事後の丸光園に駆け付けた浩介に声を掛けた女性だったんだね。
 水商売がしたいという女性に対して当然の反応をしていたコソ泥3人組だけど、晴美の生い立ちを知って急に未来人としての助言をする。きっと3人も丸光園の関係者・・・というか出身なんだろうな、と思ってたらビンゴ。いや、東野さんに上手く思考を誘導されたんだろうな。
 丸光園を見舞った晴美は館長の皆月から、彼の姉である前館長の話を聞く。全館長が若い時に駆け落ちまで考えた相手からの手紙の末尾に「浪矢雄治」の文字に、息を呑んだ。とても思慮深い青年だったんだろうし、歳を取ってもこんなに真摯な人間になったんだね。
 んー、でも、不思議現象を前館長の力によるものとするには、ちょっとポッと出過ぎて弱いかなぁ。ま、それが些細な事と思えるくらいの力が、この作品にはあるんだけど。
 ラストが凄く良かった。第3章でナミヤ雑貨店で未来からの手紙を受け取った雄治は、最後に投げ入れられた白紙の紙への回答を書く。その正体はこの最終章での敦也の実験なんだけど、3章で悩んだ末に書いたと思われる雄治の回答が素晴らしくて、参りました状態。そうだよ!地図がないって、最高なんだよ、きっと。白紙って凄いんだよ。頭空っぽの方が夢詰め込めるってドラゴンボールも言ってるじゃん!(思考が迷走し始める)。
 願わくば、罪を償おうとする3人を武藤晴美さんがその力量で助けてくれますように。3人も武藤晴美を手助けして、丸光園をどうにか救ってくれますように。


 めっちゃ面白かった。と同時に、最近の私は自分の好みじゃない本ばっか読んでたなって気付かされた。心震える本との出会いって、やっぱ最高ですな。
 時系列が交錯するから章の冒頭で「ん?」ってなる事もあったけど、最終的には最高の構成だと思った。後の章で人物を掘り下げるこの感じ、読んでて一人で静かーに
 盛り上がる。例えばナミヤ雑貨店の店主の正体って謎のまま終わっても十分面白いだろうに、しっかりと掘り下げてくれている。セリとマネージャーの繋がりはいい感じのチラ見せ具合だし、先に書いたけど和久浩介と無言で通じるシーンで何だか嬉しくなる。3話の白紙がラストに効いてるとこに大感動し、きっとこの3人は今後前を向いて歩いていけるに違いないと期待して、晴れ晴れとした気持ちで読み終われた。
 一章ごと切り取っても十分面白いのに、全部読んだら相乗効果で何倍も面白いところが凄い。東野さんを読むのは相当久し振りだと思うけど、やっぱいいなぁ。でもこの人、作風の幅が広すぎるんだよね。うっかり鬱ラストの作品読んだ日にゃ、数日引き摺ってしまうから、尊敬してるけどファンにはなれないな・・・。
 悩み相談だけあって全体的に暗いけど、何だか温かい気持ちになれるのが不思議。
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別窓 | [は行の作家]東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『さまよう刃』  東野 圭吾
2009-04-30 Thu 12:33
さまよう刃さまよう刃
東野 圭吾

朝日新聞社 2004-12
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 高校生の一人娘を殺されて呆然としていた長峰に、スガノカイジとトモザキアツヤという2人が犯人だと告げる謎の電話があった。教えられた住所のアパートの侵入した長峰は、娘が凌辱されているところを撮影したビデオを見付ける。彼は帰ってきた男を衝動的に殺して逃走し、もう1人の男も殺す決意をした。

 身勝手な犯行と逃亡、親の責任放棄、遺族を喰い物にするマスコミなど、読んでいるだけなのに悲しみと憎悪が押し寄せるように伝わってくる本だった。東野さんの文章は、相変わらず凄い説得力を持って迫って来る。トントンと進んでいく話とは裏腹に、読めば読むほどずっしり重い。でも単なる読者でしかない私達は、本当に家族を殺された経験を持つ人の気持ちの何百分の一も理解できてないんだろう。
 犯罪を犯す若者だけじゃなく、その親達が揃って無責任であることがまた腹立たしい。やはり彼らを育てた環境そのものから歪んでいるんだろうか。だとしたら、最近の残忍な少年犯罪を語る前にその上の世代から見直さないといけないんだろうか。
 重く苦しいけど、目を背けることができない話だった。ここ数年、少年による自己中心的な犯罪を本当に頻繁に目にする。何の落ち度もなく事件に巻き込まれた被害者の遺族は、加害者が少年だからと庇う法律によって何度も絶望しているだろう。そう思っている人って多いんだろう。復讐を決意する長峰を支える人、声に出して言うことは許されないけど長峰の復讐を願う人もいる。まさに現代の少年犯罪を描く作品だった。
 唯一の不満と言えば、カイジとトモヤにレイプされた揚句自殺した少女の父親・鮎村が刃物を持ってカイジに向かって行く際に声をあげたこと。何で「うおおおお」なんて言っちゃうんだよ、相手は若いから気付かれたら避けれるじゃないか。作中にどっぷり浸かりながら読んでいたんで、闇雲に突進する鮎村が歯がゆくもあった。
 ラストは、フィクションとしてこれで良かったのかは悩む。カイジをもっともっと苦しめて欲しかったとも思うし、長峰には復讐を遂げて欲しいと願いながらも読み続けていた。でも反面、長峰がこれ以上苦しむことはないということにほっとしている。生きて罪を償っても、長峰の苦しみは絶対に終わらないうえにカイジの方が社会復帰が早い可能性だってあるんだから。未成年であることと、傷害致死であること、悪質なレイプ事件常習犯でも現行の法律は罪が軽いこと、麻薬の使用が初めてであることなんかを考えると、カイジが後悔するほどの罪には決してならないだろう。
 裁判員制度が始まって、凶悪犯罪に対して世の中の人々が思っている罪が科せられるようになればいいと思う。
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『夜明けの街で』  東野 圭吾
2008-10-06 Mon 10:55
夜明けの街で夜明けの街で
東野 圭吾

角川書店 2007-07
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 不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた――とモノローグで語る妻子持ちの主人公・渡部の課に、派遣社員として仲西秋葉が入った。派遣社員が来るのはよくある事だと全く興味を持つこともなかったが、ひょんなことから個人的に何度か会うことになる。意地っ張りな秋葉を次第に放っておけなくなっていた渡部を、秋葉が誰もいない実家に誘ったことから不倫が始まっていく。
 渡部は妻を誤魔化しながら何度も関係を重ねるうちに、次第に秋葉に本気になっていく。クリスマスもバレンタインも何とかして秋葉に会い、とうとう妻と別れることも考え始めた矢先、秋葉が時効目前の殺人事件の容疑者であることを知る。
 秋葉の実家で父の不倫相手だった秘書が殺された事件があったが、第一発見者である秋葉が容疑を掛けられていた。秋葉の両親は1年ほど別居した後に離婚したが、2日後に母親が自殺。その3ヶ月後に起きた殺人だったために、母親の自殺の原因となった不倫相手を秋葉が殺したという動機もあった。

 本っ当に幅広い人だな東野さんは。ミステリー作家と思いきやブラックユーモアの利いた作品も出すし、読後に奈落の底に落とされるような物もあれば号泣させられる物もある。そして今回は不倫もの。以前読んだ『レイクサイド』も不倫は絡んでたけど、今回は殺人より不倫がメイン。
 渡部が少しずつ秋葉を気にするようになり、関係が始まってからはどんどんのめり込んでいく様子がリアルに思えてならない。私に不倫経験はないけど、人はこうやって不倫に陥っていくんだな~とか思いながら読んでしまった。戸惑いつつも浮かれた気分っていうのは、きっととても魅力的な状態だろう。そこに殺人容疑というドキドキが絡んでくるけど、普通に結婚生活を起こっている私としては秋葉が真犯人であることを願ってしまう。こんな女、殺人罪で捕まってしまえばいいのに・・・なんて思ったり。
 ミステリーの真実はわりと肩透かしだったけど、秋葉がどんどん独占欲を出していく様子が不気味でゾクゾクしてくる。その裏にまた真意が隠されているとは。
 東野さんに時々あるボディーブローのような結末ではなく、かなりライト。だからちょっと物足りない気はする。けど、そつがない。
 それにしても、いい奥さんと可愛い娘がいながら不倫かぁ。妻は女じゃない、自分は男じゃない、だから女として愛せる人に出会って男を取り戻させてくれたことで離れられなくなる・・・って、夫婦ってそうなっちゃっていくものなのかなぁ。ラストで渡部の妻・有美子が不倫に気付いてたっていう結末には、ちょっとゾクッとした。子育てに専念してパート程度しかやっていない有美子は、今後養育費をもらったとしても困窮に陥るだろう。だから責めずに耐えていた。女って怖いっていうか母は強しというか。
 ラストの新谷の話は、物語としては蛇足って気がしなくもない。渡部の不倫を散々引き止めていた友人の話が最後にポンとあるのを見た時にはやや興醒めだと思った。でもなかなか凄味のある話で、これはこれで非常に面白かった。
別窓 | [は行の作家]東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『赤い指』  東野 圭吾
2007-02-14 Wed 01:50
赤い指赤い指
東野 圭吾

講談社 2006-07-25
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 東野圭吾の最新作。作品を出すと必ず上位にランクインする作家だ。しかし私にとって、この人の作品は読む前に構えずにはいられない。油断すると登場人物の不幸さにガツンとやられる。でもやっぱり、筆力は圧倒的だ。面白い面白くないの問題じゃなくて、読み進まずにはいられない。今回の作品も、重いこと重いこと。でもどんどん読んでしまう。
 この作品は二つの視点から書かれている。一人目の主人公は、息子が幼女を家に連れ込んだ末に殺してしまったことを隠そうとする中年の男。もう一人は、従兄弟と組まされることになった警視庁刑事の松宮。
 中年男の家族には終始イライラさせられる。姑いじめをし、息子に執着するエゴイスティックな妻。いじめられた経験からか荒んだ息子。妻に逆らえず威厳のない中年男。特に妻には、相当腹が立った。東野圭吾は、人の不幸を描くのが上手いよね。まだ何作かしか読んだことないけど、不幸で人格が歪んだ登場人物とか、醜さに気持ちが悪くなるくらいだ。
 松宮刑事の方は、捜査一課でも有名な敏腕刑事であり、松宮にとっては従兄弟でもある加賀とコンビを組まされる。伯父を慕い尊敬している松宮は、病床に伏した父親を見舞おうとしない従兄弟をずっと良からず思っていた。でも敏腕の噂は本当で、加賀はどんどん事件の核心に迫る。
 そんな敏腕刑事に追い詰められた中年男は、犯行を痴呆症の母親の仕業に見せかけることにした。その辺のエゴが実にリアルで、恐ろしく醜い。でも親心なんだよなぁ。歪んでるけど。
 行くとこまで行ったけど、最後は辛うじてほっとした。なぜ従兄弟が父親を見舞わなかったのかも判明した。
 東野圭吾だからこそ、最後がどうなるか気になって仕方なかった。エゴの部分が剥き出しのまま終わっても不思議じゃない作家だし。後味悪い事件ながら、きちんと解決して良かった。
 ミステリとしてはいまいちだったけど、それがどうでも良くなるくらい引き込まれた。
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『容疑者Xの献身』  東野 圭吾
2006-03-12 Sun 00:28
容疑者Xの献身容疑者Xの献身
東野 圭吾

文藝春秋 2005-08-25
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 やっとここまでたどり着きいた。この本を読むために『探偵ガリレオ』と『予知夢』を読んだ。その2冊を読んで、正直微妙だと思ってたこのシリーズ。『容疑者X~』でガツーンとやられてしまった。前2作はプロローグに過ぎなかったと思う。これでこそ東野圭吾。
 衝動的に殺人を犯してしまった母娘を、隣の部屋に住む天才数学者が完全犯罪に仕立てようとする話。全部読んで初めて、計画の緻密さがわかるという代物だった。「献身」の意味もやっとわかった。
 最後に湯川さんが取った行動は正しかったんだろうか。石神さんが何をしてでも守ろうとした母娘なのに、話さずにいられなかったのは善なんだろうか。湯川さんとの友情を壊してでも逮捕すると言い切った草薙さんの人間性は?でも、そうせずにはいられないのが2人それぞれの「正義」で、人間臭さを捨てきろうとしている姿がいい。
 石神さんはただ母娘の幸せを願って、別の男と幸せな結婚をすることまで望んだのに、すべてが破綻した。この東野圭吾の厳しさ、重量感、嫌いじゃない。でも立て続けに読むと自分の心が破綻しそうだわ。
 ちなみに今回、ちゃんと草薙さんを頭いい人として描写してあった。今までがひどすぎたんだよね・・・。マヌケなとこだけ際立たせてた。警視庁捜査一課の刑事があんな抜け作なはずないのに、そういとこばっか書いてたんだもんなぁ。
 それから、警察の捜査のいい加減さは相変わらずかな。日本の警察はもうちょい優秀だと思うよ。なんで検死解剖してないの?指紋照合だけで被害者を決め付けていいの?草薙さん、単独行動多すぎでいいの?こんなツッコミしてたらこの小説は楽しめないの?このシリーズの中の警察は無能だという設定を前2作で学んでた。着眼しちゃいけないところは深く考えなかったから楽しめたんだろうな。いきなりこれから入ってたら、そこら辺が気になって集中できなかっただろう。
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