FC2ブログ
元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『カッコウの卵は誰のもの』
2018-12-18 Tue 11:23
カッコウの卵は誰のもの
東野 圭吾
光文社
売り上げランキング: 538,530


 元スキーヤーの緋村のもとに、娘が所属する新世開発社のスポーツ科学研究所副所長・柚月が訪ねてきた。スポーツ選手の才能を発掘するために科学的に研究している柚月は、ある種のスポーツに適した遺伝子パターンを発見した。スキー界期待のホープである緋村の娘・緋村風美がその遺伝子パターンを持っていることが判明したため、研究のために緋村自身の遺伝子パターンを調べさせて欲しいと言う。
 努力こそが才能に勝ることを理由に断った緋村。実は風美は緋村の子供ではなかった。風美が2歳の時に自殺した緋村の妻の遺品から、風美は緋村夫妻の子ではないことを調べ上げていた。19年前に起こった新生児誘拐事件と関りがあると思われるが、警察に相談することが出来ないまま月日が過ぎていた。
 一方、才能にも容姿にも恵まれた風美にスポーツライター達が注目し始めていたが、彼女を試合の出場メンバーから外すよう書かれた脅迫状が届いていた。ワールドカップを控えた彼女を動揺させないよう、柚月が広報担当と称して風美の身辺を監視することとなる。2通目の脅迫状が届いた直後、風美が乗る予定だったシャトルバスが何者かによってブレーキに細工されて事故を起こし、風美のファンを名乗る初老の男が重体を追う。
 その初老の男は風美を訪ねる前に父親の緋村を訪ねており、風美が天涯孤独の知人女性によく似ているためにDNA鑑定をさせて欲しいと言っていた。


 緋村の葛藤、風美の出生の謎、意識不明の初老男性の目的、脅迫状と事故の犯人の目的、服従させられている男子高生・伸吾、柚月の有能さなどなど。成り行きが気になる設定盛りだくさんで、東野ワールドをいつも通りワクワク読ませてもらった。でも、ラストがいつもに比べて弱いかなぁ。普通に面白い作品だと思うけど、「東野圭吾ブランド」とでも言ったらいいのか、普通の面白さを遥かに超える読後感を期待してしまう。読者を振り回しておいてラストでズシンとくる感じ来るはず、きっと来る・・・、あれ?そこまでない、みたいな。いつもより感動が弱かった。
 例えば風美の遺伝子Fパターンの秘密。父娘で血は繋がってないのに同じスポーツが得意な理由には必然があるはず、だって東野さんだもん・・・だと思って読み続けたけど、緋村の妻・智代に新体操の才能を持つ友人がいたのは偶然に過ぎないみたいでちょっとがっかり。期待し過ぎたのは自覚してるけど。
 バスに細工した動機もちょっとありがちというか、手垢が付いた感じがあるかな。そして、上条文也にはどうにかしてドナー提供を受けて生きて欲しかった。絶対、真実を受け入れる風美の傷心とそれを上回る生命の感動が待ってると思ったのに。
 さすがだと思ったのは、「カッコウの卵」の意味。風美を育ててきた緋村と、カッコウの托卵の話を掛けてあると思ったら大間違いだった。音楽に興味があったのに、遺伝子パターンによって才能を見出されてスキーの訓練を受けさせられる高校生の鳥越伸吾。受け継がれた才能を「カッコウの卵」とし、その才能は伸吾自身の物だから伸吾の好きにさせるべきという想い。私も人の親だから、子の才能を見出すことには興味ある。調べてわかるものならぜひ知りたいけど、それが子にとって幸せとは限らない。伸吾に音楽の才能がなくて鳴かず飛ばずのインディーズのまま壮年期半ばまで行ってしまう手痛い人生の可能性だって大きい。でも大人が先回りせず、子はきちんと自分の意志で考え、行動すべきなのかな。うーん、理想論だけどね。
別窓 | 東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『流星の絆』  東野 圭吾
2018-07-27 Fri 13:35
流星の絆
流星の絆
posted with amazlet at 18.07.20
東野 圭吾
講談社   2008.03
売り上げランキング: 43,974


 小6の功一、小4の泰輔、小1の静奈の3兄妹は、夜中に流星群を見るために窓から家を抜け出した。天気に恵まれず流星群は見られないまま帰って来た3人だったが、家で両親が殺されているところを功一が発見する。外で待っていた泰輔は、裏口から出る見知らぬ男を目撃していた。
 3人は施設に引き取られ、犯人が見付からないまま月日は過ぎて14年後の時効間もない頃。3兄妹は功一の頭脳、泰輔の演技力、静奈の美貌を武器に詐欺グループとして助け合いながら生きていた。
 稼業が上手くいっているうちに手を引こうと、功一は有名洋食店「とがみ亭」の跡取り息子・戸神行成を最後の標的に選ぶ。計画はいつも通り順調だったが、偶然行成の父親・政行を見た泰輔は14年前の事件直後に家の裏口出て来た男だったと言い出した。また、静奈も創業者オリジナルのハヤシライスが父親の洋食店「アリアケ」の物と酷似していることに気付いて動揺する。
 何とか証拠を掴んで時効前に警察に逮捕させようと画策する中、功一と泰輔は静奈が行成に本気で惹かれ始めていることに気が付いた。


 しっかり者で頼もしい功一、兄を尊敬しつつも少し弱いところのある泰輔、兄達に可愛がられている静奈。3兄妹の微笑ましい冒険が終わった直後の惨劇が衝撃的で、一気に引き込まれた。特に功一の、しっかり者長男であるが故にこんな時でもしっかりせざるを得ない様子に胸が痛む。と同時に、自分自身も折れそうになりながらも弟妹の事を心配している功一を、状況説明だけで感じさせている東野さんの文章力が凄い。
 時効廃止制度が施行される前に書かれた本で、時効成立直前の焦燥感や絶望はそう多く書いていないのに感じさせられる。静奈の恋心も密かに静かに忍び寄って来るし、時々起こるトラブルにはしっかりヒヤッとさせられ、政行は殺人犯らしからぬ泰然自若とした人格者だと思ってたらやっぱり犯人じゃないし、偽ダイヤを買って「僕もあなた達と絆で繋がれていたい」には、ただただ感動。やっぱりベストセラー作家って凄いなって改めて思った。
  でも、真犯人はちょっと唐突過ぎたかなぁ。思い返せば伏線は随所にありはしたけど、え?そっち?お前が出しゃばるんかい!みたいな。真犯人がいたおかげで、静奈は幸せになれそうなんだけどね。とは言え詐欺犯罪者だからコソコソ生きて行かないといけない・・・かと思いきやそこんとこも、きれいに解決。円満な幸福に、安堵した。願わくば、功一と泰輔にもいつか幸せになって欲しい。
別窓 | 東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『ナミヤ雑貨店の奇跡』  東野 圭吾
2017-03-13 Mon 23:31
ナミヤ雑貨店の奇蹟
ナミヤ雑貨店の奇蹟
posted with amazlet at 17.03.11
東野 圭吾
角川書店(角川グループパブリッシング) (2012-03-28)
売り上げランキング: 16,458

 1970年代に、どんなくだらない悩み相談にも必ず真剣に返事をくれることで有名になったナミヤ雑貨店。小学生達の些細な悩みに乗るうちに、次第に真剣な悩みも舞い込むようになってきた。悩みを書いた手紙をポストに入れると、返事は翌日裏の牛乳箱に入っているという。
 悩み相談に応じていた店主が亡くなった三十数年後の命日、一晩だけナミヤ雑貨店が過去と繋がる。居合わせたコソ泥3人組は、その奇跡に巻き込まれていく。


「回答は牛乳箱へ」
 敦也・翔太・幸平の3人は、悪事を働いて逃走中に車が故障し、廃屋と思しきナミヤ雑貨店に一時的に身を潜める。夜明けを待って逃走するつもりでいたが、シャッターのポストから「月のうさぎ」と名乗る女性からナミヤ雑貨店宛てに相談事が書かれた手紙が投げ込まれた。
 オリンピックを目標に頑張っているが、恋人の不治の病が発覚した。恋人の傍にいたいが、恋人は2人の夢だった自分のオリンピック出場を望んでいる。自分はどうすべきかという質問に、幸平に引きずられるようにして他の2人も真剣に考え始める。自分達なりに真剣に考えて出した答えにすぐ返事が来たことで、3人は異常を感じ始めた。

 最初の数行から、自分がのめり込むのを感じた。ものすっごい勢いで惹き込まれる。コソ泥に失敗した3人のもとに変な悩みが舞い込むという設定だけでもちょっとワクワクするのに、雑貨店内だけ時間に異変が起こってるって設定が面白過ぎる。ちょっと愚鈍そうな幸平、お人好しっぽい感じの翔太、冷静沈着ながら2人を放っておけないリーダー格の敦也のトリオもいい感じの凸凹感があって憎めない。
 何度かの往復書簡が終わってちょうど収まり良く、まあこんな解決が妥当でしょって所で終わったと思ったらすぐに次の手紙が舞い込んで来たところで第一章は終わり。でもこの第一章は本当に始まりに過ぎなくて、妥当な解決どころじゃなかった。


「夜更けにハーモニカを」
 ミュージシャンを目指して上京したものの上手くいかずに才能の限界を感じていた松岡克郎は、祖母が亡くなったために久し振りに実家に帰る。実家の魚屋を継ぐべきではないかという考えが段々と濃くなっていく中、ナミヤ雑貨店が今でも悩み相談に乗っていった。さっそく知り手紙を書いたが、その返事は辛辣なものだった。
 父の後押しもあり東京に戻った克郎は、児童養護施設「丸光園」に慰問演奏でセリという少女に出会う。彼女は克郎がハーモニカ演奏をした『再生』という曲を気に入ったようだった。

 主人公が変わったのはすぐにわかったから、ナミヤ雑貨店の話は1話だけだったのかとちょっとがっかりした。もう少し第一章の3人の視点でナミヤ雑貨店を見ていたいと後ろ髪引かれつつ読み進んだら、克郎が受け取った返事がどう見てもあの3人が書いた物だったから安心。
 夢を追う青年のよくある話かと思いつつも、ナミヤ雑貨店の前でハーモニカ演奏をした後の返事にはちょっと嬉しくなった。克郎、遅咲きなのかーと思ってるとこのラスト。もうね、感動するよね、この物語の絡み具合。


「シビックで朝まで」
 貴之の父親・雄治はナミヤ雑貨店を営みながら、相談事にも真剣に向き合って返事を書くことを生き甲斐にし、貴之に同居を持ち掛けられても断っていた。しかし体調が思わしくなくなり、息子家族との同居を決意する。
 間もなく、雄治に末期の肝臓癌が見付かり入院生活を送るある日、病床の雄治が一晩だけナミヤ雑貨店に戻らせてくれと頼んで来た。何十年後か先からの手紙が受け取れるはずだと言う。そのために、自分の三十三回忌前に「ナミヤ雑貨店に相談をし、回答を得た方々の忌憚ない意見を手紙に書いてシャッターの郵便口に入れて欲しい」という旨の公表をして欲しいという遺言書を渡した。

 ナミヤ雑貨店の店主だった人はどんな人だったんだろうか、その人に不思議な力があったんだろうか、という疑問が、こんな中盤であっさり解決するなんて。その事にまず驚き。
 父親が頑固を貫こうとしても、奇妙な我が儘を言っても、大して反論することなく付き合っている貴之が優しくて、わけがわからなくてもネットに情報を流す協力をする貴之の孫・駿吾も優しくて、その優しさが奇蹟の一端を担ってることに無駄に感動した。
 妻子持ちの男性と不倫関係の挙句妊娠した女性の相談に乗ったものの、その女性と思しき人物が車ごと海に落ちて赤ん坊だけが助かったという新聞記事から同居を決意したようだったけど、その女性の娘からの手紙で事故だった事が判明する。しかもその人、二章で歌手になったセリと同じ児童施設で育ち、今はセリのマネージャーしてるとか。それから、雄治の死後にナミヤ雑貨店に来た貴之が、かつて相談に乗ってもらったというフェンシング選手の女性に声を掛けられたりとか。前に書かれていた出来事が、ただ通り過ぎるだけじゃなくこの後も響いてきそうな予感がして、読んでて胸が高鳴った。ただチラッと現状を見せただけじゃないに違いない、東野さんは凄い人だから、きっとこの後も絡んできて感動させてくれるに違いない。この後の章でこの期待が当たり、一人で盛り上がった。


「黙祷はビートルズで」
 ナミヤ雑貨店が一夜だけ感想を受け付けるという情報を知って訪れた和久浩介は、近くにあったビートルズ専門の音楽バーで手紙を書くことにする。
 彼はかつて裕福だったが、父親の事業の失敗から夜逃げすることになり、ナミヤ雑貨店に相談したことがあった。夜逃げの最中に父親のことが嫌になって長距離トラックに潜り込んで逃走し、そのまま黙秘を貫いて児童施設に入り、別の戸籍を取得していた。
 彼は自分の人生を自分で切り開いていったつもりでいたが、偶然入ったバーがかつての同級生の妹が営むバーであり、自分の両親が夜逃げした二日後に心中したことを知って愕然とする。

 熱烈なビートルズファンである浩介についていけず、『レット・イット・ビー』やら解散の話やら、ちょっとうんざり気味で読んだのは、まあ仕方ないから置いといて。
 両親、本来なら夜逃げ後はどうするつもりだったんだろうか。まさか、3人で心中するつもりだったわけでは?それとも、浩介がいたからこそ、どこかでひっそりとやり直すつもりでいた?その辺が不明のままで、読んでいてこっちまで苦しくなった。。
 育った児童施設は『丸光園』。これまでは、小さくはないって程度の存在感だった児童施設が、ナミヤ雑貨店と並ぶキーワードになってきた事が感じられる章だった。
 種明かしの順序やテンポが絶妙過ぎて、息を飲むことが増えてきた中盤章だった。
 浩介が手紙を入れに行くシーンで、セリのマネージャーと思われる女性と遭遇したシーンが私的にはツボ。一瞬警戒した様子を見せた女性に対して、手紙を見せてシャッターを指さす。それだけで赤の他人と通じる世界を、雄治が作ったんだと思うと感動が込み上げてくる。


「空の上から祈りを」
 敦也・翔太・幸平の3人は、スマホで一夜限りのナミヤ雑貨店復活の話を知った。その事が奇妙な現象の原因だと考えて出て行こうとする敦也だったが、他の2人は明け方までいたいと言う。そこへまた、相談事が投げ込まれた。
 「迷える子羊」と名乗る女性は、丸光園で小6まで育った自分を引き取ってくれた親戚に恩返しがしたいために会社員を辞めて水商売をしたいと言う。どうすれば周囲の理解を得られ、会社を穏便に辞められるかという相談だった。
 武藤晴美は、近所に住む年上の友人・北沢静子からナミヤ雑貨店の話を聞いて「迷える子羊」と名乗る手紙を出していた。叱咤の返事に苛立ちながら反論の手紙を書き返していたが、最後の手紙は未来を予言しているとしか思えないアドバイスだった。

 3人の視点から急に晴美の視点になったから若干戸惑った。そして、すぐには気付かなかったけど前の章で火事後の丸光園に駆け付けた浩介に声を掛けた女性だったんだね。
 水商売がしたいという女性に対して当然の反応をしていたコソ泥3人組だけど、晴美の生い立ちを知って急に未来人としての助言をする。きっと3人も丸光園の関係者・・・というか出身なんだろうな、と思ってたらビンゴ。いや、東野さんに上手く思考を誘導されたんだろうな。
 丸光園を見舞った晴美は館長の皆月から、彼の姉である前館長の話を聞く。全館長が若い時に駆け落ちまで考えた相手からの手紙の末尾に「浪矢雄治」の文字に、息を呑んだ。とても思慮深い青年だったんだろうし、歳を取ってもこんなに真摯な人間になったんだね。
 んー、でも、不思議現象を前館長の力によるものとするには、ちょっとポッと出過ぎて弱いかなぁ。ま、それが些細な事と思えるくらいの力が、この作品にはあるんだけど。
 ラストが凄く良かった。第3章でナミヤ雑貨店で未来からの手紙を受け取った雄治は、最後に投げ入れられた白紙の紙への回答を書く。その正体はこの最終章での敦也の実験なんだけど、3章で悩んだ末に書いたと思われる雄治の回答が素晴らしくて、参りました状態。そうだよ!地図がないって、最高なんだよ、きっと。白紙って凄いんだよ。頭空っぽの方が夢詰め込めるってドラゴンボールも言ってるじゃん!(思考が迷走し始める)。
 願わくば、罪を償おうとする3人を武藤晴美さんがその力量で助けてくれますように。3人も武藤晴美を手助けして、丸光園をどうにか救ってくれますように。


 めっちゃ面白かった。と同時に、最近の私は自分の好みじゃない本ばっか読んでたなって気付かされた。心震える本との出会いって、やっぱ最高ですな。
 時系列が交錯するから章の冒頭で「ん?」ってなる事もあったけど、最終的には最高の構成だと思った。後の章で人物を掘り下げるこの感じ、読んでて一人で静かに盛り上がる。例えばナミヤ雑貨店の店主の正体って謎のまま終わっても十分面白いだろうに、しっかりと掘り下げてくれている。セリとマネージャーの繋がりはいい感じのチラ見せ具合だし、先に書いたけど和久浩介と無言で通じるシーンで何だか嬉しくなる。3話の白紙がラストに効いてるとこに大感動し、きっとこの3人は今後前を向いて歩いていけるに違いないと期待して、晴れ晴れとした気持ちで読み終われた。
 一章ごと切り取っても十分面白いのに、全部読んだら相乗効果で何倍も面白いところが凄い。東野さんを読むのは相当久し振りだと思うけど、やっぱいいなぁ。でもこの人、作風の幅が広すぎるんだよね。うっかり鬱ラストの作品読んだ日にゃ、数日引き摺ってしまうから、尊敬してるけどファンにはなれないな・・・。
 悩み相談だけあって全体的に暗いけど、何だか温かい気持ちになれるのが不思議。
別窓 | 東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『さまよう刃』  東野 圭吾
2009-04-30 Thu 12:33
さまよう刃さまよう刃
東野 圭吾

朝日新聞社 2004-12
売り上げランキング : 190512
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 高校生の一人娘を殺されて呆然としていた長峰に、スガノカイジとトモザキアツヤという2人が犯人だと告げる謎の電話があった。教えられた住所のアパートの侵入した長峰は、娘が凌辱されているところを撮影したビデオを見付ける。彼は帰ってきた男を衝動的に殺して逃走し、もう1人の男も殺す決意をした。

 身勝手な犯行と逃亡、親の責任放棄、遺族を喰い物にするマスコミなど、読んでいるだけなのに悲しみと憎悪が押し寄せるように伝わってくる本だった。東野さんの文章は、相変わらず凄い説得力を持って迫って来る。トントンと進んでいく話とは裏腹に、読めば読むほどずっしり重い。でも単なる読者でしかない私達は、本当に家族を殺された経験を持つ人の気持ちの何百分の一も理解できてないんだろう。
 犯罪を犯す若者だけじゃなく、その親達が揃って無責任であることがまた腹立たしい。やはり彼らを育てた環境そのものから歪んでいるんだろうか。だとしたら、最近の残忍な少年犯罪を語る前にその上の世代から見直さないといけないんだろうか。
 重く苦しいけど、目を背けることができない話だった。ここ数年、少年による自己中心的な犯罪を本当に頻繁に目にする。何の落ち度もなく事件に巻き込まれた被害者の遺族は、加害者が少年だからと庇う法律によって何度も絶望しているだろう。そう思っている人って多いんだろう。復讐を決意する長峰を支える人、声に出して言うことは許されないけど長峰の復讐を願う人もいる。まさに現代の少年犯罪を描く作品だった。
 唯一の不満と言えば、カイジとトモヤにレイプされた揚句自殺した少女の父親・鮎村が刃物を持ってカイジに向かって行く際に声をあげたこと。何で「うおおおお」なんて言っちゃうんだよ、相手は若いから気付かれたら避けれるじゃないか。作中にどっぷり浸かりながら読んでいたんで、闇雲に突進する鮎村が歯がゆくもあった。
 ラストは、フィクションとしてこれで良かったのかは悩む。カイジをもっともっと苦しめて欲しかったとも思うし、長峰には復讐を遂げて欲しいと願いながらも読み続けていた。でも反面、長峰がこれ以上苦しむことはないということにほっとしている。生きて罪を償っても、長峰の苦しみは絶対に終わらないうえにカイジの方が社会復帰が早い可能性だってあるんだから。未成年であることと、傷害致死であること、悪質なレイプ事件常習犯でも現行の法律は罪が軽いこと、麻薬の使用が初めてであることなんかを考えると、カイジが後悔するほどの罪には決してならないだろう。
 裁判員制度が始まって、凶悪犯罪に対して世の中の人々が思っている罪が科せられるようになればいいと思う。
別窓 | 東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
『夜明けの街で』  東野 圭吾
2008-10-06 Mon 10:55
夜明けの街で夜明けの街で
東野 圭吾

角川書店 2007-07
売り上げランキング : 12260
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた――とモノローグで語る妻子持ちの主人公・渡部の課に、派遣社員として仲西秋葉が入った。派遣社員が来るのはよくある事だと全く興味を持つこともなかったが、ひょんなことから個人的に何度か会うことになる。意地っ張りな秋葉を次第に放っておけなくなっていた渡部を、秋葉が誰もいない実家に誘ったことから不倫が始まっていく。
 渡部は妻を誤魔化しながら何度も関係を重ねるうちに、次第に秋葉に本気になっていく。クリスマスもバレンタインも何とかして秋葉に会い、とうとう妻と別れることも考え始めた矢先、秋葉が時効目前の殺人事件の容疑者であることを知る。
 秋葉の実家で父の不倫相手だった秘書が殺された事件があったが、第一発見者である秋葉が容疑を掛けられていた。秋葉の両親は1年ほど別居した後に離婚したが、2日後に母親が自殺。その3ヶ月後に起きた殺人だったために、母親の自殺の原因となった不倫相手を秋葉が殺したという動機もあった。

 本っ当に幅広い人だな東野さんは。ミステリー作家と思いきやブラックユーモアの利いた作品も出すし、読後に奈落の底に落とされるような物もあれば号泣させられる物もある。そして今回は不倫もの。以前読んだ『レイクサイド』も不倫は絡んでたけど、今回は殺人より不倫がメイン。
 渡部が少しずつ秋葉を気にするようになり、関係が始まってからはどんどんのめり込んでいく様子がリアルに思えてならない。私に不倫経験はないけど、人はこうやって不倫に陥っていくんだな~とか思いながら読んでしまった。戸惑いつつも浮かれた気分っていうのは、きっととても魅力的な状態だろう。そこに殺人容疑というドキドキが絡んでくるけど、普通に結婚生活を起こっている私としては秋葉が真犯人であることを願ってしまう。こんな女、殺人罪で捕まってしまえばいいのに・・・なんて思ったり。
 ミステリーの真実はわりと肩透かしだったけど、秋葉がどんどん独占欲を出していく様子が不気味でゾクゾクしてくる。その裏にまた真意が隠されているとは。
 東野さんに時々あるボディーブローのような結末ではなく、かなりライト。だからちょっと物足りない気はする。けど、そつがない。
 それにしても、いい奥さんと可愛い娘がいながら不倫かぁ。妻は女じゃない、自分は男じゃない、だから女として愛せる人に出会って男を取り戻させてくれたことで離れられなくなる・・・って、夫婦ってそうなっちゃっていくものなのかなぁ。ラストで渡部の妻・有美子が不倫に気付いてたっていう結末には、ちょっとゾクッとした。子育てに専念してパート程度しかやっていない有美子は、今後養育費をもらったとしても困窮に陥るだろう。だから責めずに耐えていた。女って怖いっていうか母は強しというか。
 ラストの新谷の話は、物語としては蛇足って気がしなくもない。渡部の不倫を散々引き止めていた友人の話が最後にポンとあるのを見た時にはやや興醒めだと思った。でもなかなか凄味のある話で、これはこれで非常に面白かった。
別窓 | 東野 圭吾 | コメント:0 | トラックバック:0 |
| よむよむ記 | NEXT