元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『密室 ミステリーアンソロジー』  
2017-05-18 Thu 12:15
密室―ミステリーアンソロジー (カドカワノベルズ)
姉小路 祐
角川書店   1994.05
売り上げランキング: 2,765,278

「野生時代」の1994年1月号に掲載された、8人のミステリー作家による「密室」をテーマにしたアンソロジー。


「消えた背番号11」  姉小路 祐
 Jリーグチーム・関東ホワイティズに移籍したばかりの若きエース・三沢のユニフォームが、試合直前にロッカールームから無くなった。状況的に、チーム関係者の誰かが隠したとしか考えられない。入り口にはマネージャーが目を光らせていたため、密室状態となっていた。自分の背番号「11」にこだわり、他人に借りるのは絶対に嫌だと言う。試合時間になり、チームは三沢を欠いたまま出場することになった。

 「山」と言えば「川」、「密室」というと「殺人」・・・と思いがちなのに、妙に平和な話が一番に来たもんだ。窃盗になるのかな?三沢にとっては重大事件であり、間接的にその後の先週生命に関わったとはいえ、読んでて物足りなさを感じた。
 でも、とっても読みやすい話だった。Jリーグの事を全く知らないから構えて読み進めたけど、サッカー知識皆無の私にも人物関係や試合内容が理解できてとてもわかりやすかった。


「うば捨て伝説」  岩崎 正吾
 「ぼく」の祖母は、公民館の文学講座で知り合った男性から『楢山節考』の話を聞いて、かつてうば捨て山だった場所に行きたがった。その頃から、「ぼく」は『楢山節考』の夢を見るようになる。 
 実際にうば捨て山伝説の場所に行ってみると、そこは崖になっていて自然の密室かのように思えた。後日、国語教師の「ぼく」は社会教師にうば捨て伝説の事を詳しく聞こうとしたが、話し出したのは同じ土地に伝わる山姥伝説。この勘違いのせいか「ぼく」は、2つの伝説の繋がりを考えるようになった。

 「ぼく」の生活と、『楢山節考』が交錯して若干煩わしさを感じたけど、おりんが山姥伝説になる話は面白かった。いやむしろ、『楢山節考』に影響された「ぼく」の夢が面白かった。あくまで夢であって現実味はないけど、全てのリアリティを取り去って描かれたおりんと弥平の純愛に単純に感動。姥捨てという自然の摂理にも似た悲しい苦渋の風習に、空想だけど救いの末路を見出した儚さが妙に美しく感じさせられた。
 

「密室のユリ」  二階堂 黎人
 探偵・二階堂蘭子のもとに、警視庁捜査一課の山本勝正警部が事件の相談に訪れた。推理小説作家の生田百合美が自宅で殺害されたが、玄関も窓も鍵がかかった密室だった。生田百合美は口述筆記の作家だったが、録音中に殺人が起こったために犯行の一部始終が録音されていた。

 二階堂黎人も作家名と主人公名が同じタイプの作品を書く人だという事を全く知らずに読むと、二階堂(あ、作者と同じ名・・・?ん?)・・・蘭子(え?あれ?)となった。で、全く存在感ない語り部の「私」って誰だよ状態のまま終わった。夫にしては存在感なさ過ぎると思ったら、養父母の実子という立場の兄だと読後にネットで知る。
 トリックも大したことない事と証拠捏造のすっきりしなさの相乗効果、さらに登場人物がボヤッとしてることもあって、いまいち。
 私自身の勉強不足というか読書不足な点は置いといて、シリーズで読んでたらこういう短編もありと思えたのかもしれない。


「靴の中の死体―クリスマスの密室」  山口 雅也
 パラレルワールド英国の探偵士・ブル博士は、ピンクとキッドをお供にシューメイカー夫人の家を訪れた。昨夜、シューメイカー夫人の宝石が盗まれたが、犯人は三人の息子のうちの誰かだと言う。
 翌朝、シューメイカー夫人が内線電話に出ない事を不審に思ったメイドのステラ・パウエルと共にブル博士達がシューメイカー夫人の別館「靴の館」に行くと、全裸で首を吊っていた。外は雪が積もっていて、本館から別館へ続くシューメイカー夫人の足跡が残るのみ。隣の寝室では三男が睡眠薬を大量に飲んで死んでおり、当初は三男が母親を殺して自殺したと思われた。しかし死亡推定時刻はジョージの方が早く、雪のせいで館全体が密室となっていた。

 「誘拐」でもこのシリーズが載ってたけど、予備知識皆無で単品で読んでも面白い。キッドとピンクはブル博士に師事してる感じだけど、今回も解決したのはキッド。きっとシリーズ通してこんな感じで、探偵はブル博士と見せかけといて解決するのはキッドなんだろう。で、ピンクはかき回してると見せかけて居合わせた完全犯罪に重要な証拠を残す。ブル博士は威張ってるけど嫌な奴じゃないとこ、結構好きだな。
 トリック的には単純なんだけど、短編なんだからこの単純なわかりやすさがいいと思う。


「開かずの間の怪」  有栖川 有栖
 推理小説研究会のメンバーの織田が、元病院の開かずの間にから幽霊が出るという噂の真偽を確かめようという話を持ってきた。いつもの4人でその廃病院に泊まってみる事にして3階の住居部分に過ごしていたが、織田が腹痛を訴えて帰宅。そのしばらく後、一階から物音が聞こえてきた。残る3人で探索するも、あちこちで不自然な物音がする。二手に分かれて音を追うと、アリスと望月は開かずの間の隣の部屋のドアから首だけ出して笑っている男の子を目撃した。

 有栖川先生、ホラーもいけるんだね・・・。開かずの間の謎は扉の作りが特異なだけだけど、ホラー要素が予想以上にラストまでホラーだった。織田のいたずら?それにしても全然出てこないし・・・あ、やっぱ織田のいたずらだった!でも人形が違う!?というオチがちょっと怖かったけど、こういう時も冷静な江神さんは素敵。
 ただ、こういう部屋の位置関係が重要な小説って、サラッと読めないのが苦手。ただでさえ地図が読めない私が文章のみで簡単に頭に見取り図を描けるはずもなく・・・何となくで読む。で、何となくでしか理解しない。何かわかんないけど解決しちゃったって終わる。短編だから容易に再読する気になれるのは、私にとって良かった。
 ところで、「二十世紀的誘拐」もこれもマリアちゃんは出てこないのね。掲載年的にはもう登場してるはずなんだけど、もしかしてマリアちゃん休学中の出来事って事なんだろうか。と思ってたら、「僕」ことアリスは一回生と書いてあるからマリアちゃんが入部する前の話なわけだ。


「傾いた密室」  折原 一
 ファックスによる書簡小説の形をとった、『密室―ミステリーアンソロジー』の「二重誘拐」と同じ覆面作家・西木香シリーズ。
 西木に、編集部の堀口大輔が読者からの相談を伝える。星野みさきという女性が、父親が密室で殺害された謎について考えて欲しいそうだ。報酬は星野みさきの処女と知らされて、依頼を了承する。締め切りが近い西木の代わりに堀口が星野みさきを訪ねて詳細を聞き、ファックスで西木に知らせる。
 地盤の悪い崖に建った屋敷で使用人と2人暮らしの星野一郎だったが、父親の死後、弟の二郎が遺産相続の件で訪ねてきた。電話で一郎の様子がおかしかったために実家に戻ったみさきだったが、夜中に書斎から一郎の叫び声が聞こえてきた。鍵が掛かっていたために斧で扉を壊して入ると、倒れた脚立の傍で一郎が死んでいた。二郎が怪しいと考えたみさきだったが、脚立から落ちて頭を打った事故として処理された。

 順番通りこちらを先に読んでいたら、「二重誘拐」ラストの西木のしたたかさが受け入れられたかもしれない。女の要求を頑なに拒んだ小説家魂がストイックに思えてたとこに身代金窃盗だったから驚いたけど、この作品では冒頭の下心とラストのエロオヤジっぷりで、西木の人間臭さがはっきりと描かれている。年齢不詳だから、オヤジかどうかは不明だけど。
 堀口からのファックスによる事件の情景描写が不自然に細かすぎてモヤッとするけど、話は面白かった。事件の謎は解け、西木が書き終わった小説は「傾いた密室」。つまりこの出来事を作品にした、というオチも良かった。
 ところで星野みさきからの手紙の最初の作家像、処女作『天駆ける木馬』というタイトル、ウィキで読んだ経歴的に、西木香って北村薫か?いや、わかんないけど。


「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」  法月 綸太郎
 私立探偵のリュウ・アーチャーは、ジェラルド・キンケイドから孫娘アリスの行方捜索を依頼される。アリスの部屋で見付けた手掛かりを辿って薬物中毒のSF作家フィリップ・デッカードの「隠者の家(ハーミット・ハウス)」を訪ねた。アリスがボーイフレンドのピート・ケイルが復讐から「隠者の家」に連れて行かれて薬物中毒にされ、デッカードに犯されているところを連れ出したアーチャーだったが、翌日デッカードが鍵の掛かった書斎で死んでいるのが見付かった。

 私立探偵が手掛かりを辿っていくところは面白かったんだけど、アリスが見付かってからは終始胸くそ悪い。で、ラストで血縁関係が入り乱れ過ぎてわけわからなくなる。警部が主人公に重大な事実を突きつけるも、誰だっけそれ?状態。で、胸くそ続き、人間関係で混乱、挙句に語り部である主人公が犯人というラストにモヤッ。
 で、密室トリックが意味不明のまま。アーチャーが体を横にするだけでドア下の隙間を通れたってどういう意味?ていうか、ロス・マクドナルドって誰だ。黄色い部屋って何だ。教えてGoogle先生。あ、ロス・マクドナルドってアメリカのハードボイルド作家で、リュウ・アーチャーって彼の作品の主人公なのね。それ以外の事は意味不明のまま。ロス・マクドナルド作品を読んでたら、何かわかるのかな?肝心なところがわからないこの感じ、何か嫌だ。


「声たち」  若竹 七海
 記者である春田俊朗が、妹夫婦の小柳みちる・丞太郎に事件の相談に来た。容疑者の6人は殺意が明確だったが、離れた場所で一緒に小型タクシーから6人一緒に降りるところを目撃されており、その後行われた会議を録音していたためにアリバイがあった。
 丞太郎が考える様々な密室トリックを次々にそれを打ち破るみちるだったが、テープを起こしたシナリオを読んですぐにみちるが事件の真相を解く。

 丞太郎が考える短い密室トリック、面白かった。それを間髪置かず小馬鹿にしながら解いて見せるみちるの歯に衣着せぬ言い方も好き。会議テープ自体は退屈ながら終わった瞬間にみちるがスパッと解き、ラストの一言「小型タクシーに、大人五人は乗れない」に、ああ~と感心してしまうくのも小気味良かった。
 テンポも良くて、いい夫婦だなー。面白かったです。


 読む順番を間違えたっぽいけど、先月読んだ「誘拐」とは、「色んなミステリー作家がテーマに沿って短編を書く」シリーズシリーズ的な感じ?でも全体的にはこちらの方が面白かった。短さが活きてる作品も多くて、最後の話が特に秀逸。
 それにしても、Jリーグ発足やらファックスやテープの存在やら、個人的にはノスタルジーを感じて感慨深かった。よく考えたら、出版年が四半世紀近く前か。ちょうど第何次かは知らないけどミステリーブームだった頃か?あれはマンガだけだったんだろうか?あの頃は恥ずかしながらラノベにハマってたから、よくわかんないけど。
 ミステリーに限らず古い作品の背景を見て、変わったところと変わらないところに目を向けるのもちょっと楽しく思える年齢になったなと思う。さらに、今読んでも遜色皆無の作品に巡り合えた時の感動はひとしおだと思う。
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『誘拐』  有栖川 有栖 他8名
2017-04-20 Thu 03:47
誘拐
有栖川 有栖 霞 流一 山口 雅也 五十嵐 均 折原 一
角川書店   1995.01
売り上げランキング: 2,076,962

 「野生時代」の1994年8月号に掲載された、「誘拐」をテーマにした8人のミステリー作家によるアンソロジー。


「二十世紀的誘拐」  有栖川 有栖
 学生アリスシリーズ。推理小説研究会の望月と織田はひょんなことからゼミを受け持つ酒巻教授の自宅を訪れ、酒巻教授の弟・聡に会った。
 その翌日、推理小説研究会のメンバー・江神、織田、望月、アリスは酒巻教授から絵の誘拐の相談を受ける。価値はないし犯人も聡としか考えられないものの、いつどうやって盗んだのかが謎だという。千円という破格の身代金を預かって、4人は誘拐犯の指示に従う。

 学生アリスシリーズで、マリアちゃんが入会する前の話なのかな?短い話だったから、出てこなかっただけ?どっちにしろ、マリアちゃんいないとむさ苦しいな・・・。
 事件そのものが小さいし、短い中に訴える物があったわけでもないから、あんまり面白くなかった。アリスどころか、江神さんの存在感さえ薄くて、読み応えがない。ラストの、二十世紀はコピーの時代ってところがもうちょっと掘り下げて欲しかったなぁ。
  

「セコい誘拐」  五十嵐 均
 娘のまみ子が誘拐された不動産会社の社長・上条敏夫は、三千万円の身代金を用意できずに同業者でも羽振りのいい後藤田の孫・慎治を誘拐した。手助けするふりをして慎治の身代金をまみ子の誘拐犯に渡す事に成功した上条だったが、後藤田の息子夫婦が警察に通報してしまう。

 上条はなかなか非道な事をしてるけど、どことなく小者感が拭えない感じが上手い。
 全てが上手くいったと見せかけて、ラストの犯人の手紙で窮地に追いやられた事を匂わせて終わり・・・だったんだけど、私の理解力が追い付かなくて、え?何?どういう事?犯人誰だったの?と、登場人物に犯人がいたと勘違いして混乱してしまった。
 何度か読み返して、理解。犯人に再脅迫されただけね。で、上条自身が誘拐と脅迫に手を染めたから、絶対に警察は頼れないって事ね。こんな単純な事がわからないなんて、大丈夫か、私・・・。
 あとこれは、いち母親としてとっても引っ掛かる点なんだけど、事件解決後に夫婦でいちゃつくシーンが気に食わない。子供が誘拐されて戻って来た直後なのに、母親が目離す?用心のために縁側の鍵を二重に掛けたって、そういう問題じゃないと思う。トラウマになって、娘から一刻も離れられなくなるもんじゃない?と、モヤモヤした。
 作者プロフィールで夏樹静子が実妹と書いてあってびっくりした。兄妹で推理小説家って凄い。作品数が段違いということもあって、知名度は妹の方が上かな?


「二重誘拐」  折原 一
 編集部とのファックスのやり取り、また編集部宛ての文章を書いている体の小説。
 覆面作家・西木香は締切から逃亡して車で雨の山道を走っていたところ、崖から落ちてしまった。気が付くと山小屋のベッドに寝せられていたが、腰を強く打ったせいか足に感覚がない。助けてくれた自称ファンの女性から自分のためだけに小説を書くように頼まれるが、断ると五百万の報酬を提示してきた。
 半ば脅されて小説を書くことを承知したが、女性が外出中に警察に電話をしようとして、誘拐の身代金を要求する電話が録音されていることに気付いた。西木が報酬の受け取りを渋ると女は身代金の受け取りに不備があった事にし、金額を増やして西木の前にお金を積んでいく。

 これも書簡小説っていうの?ファックスだけど。ていうか、ファックスっていうのが時代を感じる(笑)。
 名前もわからない太った女のヒステリーが気違いじみてて、ちょっと怖くて面白かった。一連の事件から西木が逃げ出した後の編集者からの手紙で、これは西木が書いた作品だったってこと?と一瞬思わされたところに、女からの手紙で再びゾッとさせられて、短編らしい後味の良さと悪さがある。
 ところでこの事件、逆探知で警察が来た時に西木はこのまま軟禁生活が続くことを懸念してたけど、女は西木に罪を着せるつもりだったんじゃないだろうか。状況証拠的にどう見ても西木が犯人にしか見えないのに、どうしてあの性悪そうな女が狂言を告白すると思うんだろうか。
 犯人が西木にしか見えないから、車もお金も盗んで逃げる時に「警察の不審訊問に引っかかっても、私は自分の身の潔白を証明することができる」という点がどうもわからない。声紋鑑定したら、女の自作自演がバレるからって事?となると、一旦は捕まるわけだから、文脈的に違うか。小説の報酬としてもらっておくぜって事?でも、車を盗んだ理由にはならない。うーん、わからん。


「知らすべからず」  香納 諒一
 ひき逃げ事件で死亡した被害者は、大金と行動を指示する手紙を持っていた。どうやら誘拐事件の身代金を届ける途中に事故に遭ったらしく、捜査一課が呼ばれた。身元がわかる物も持っていなかったため、ひき逃げ事件と誘拐事件の両方の捜査が始まった。
 庄野部長刑事、中本係長らは被害者の足取りを追っていく。

 ハードボイルド系の雰囲気の中、身代金運搬中に事故死から始まって捜査がサクサク進んでいって最後にどんでん返しっていうのが面白かった。被害者宅を突き止めたと思ったら誘拐されたのは猫だった・・・というのは犯人の機転で、実は加害者だった事に庄野と中本気付く瞬間の刑事の勘っぽい感じがかっこいい。
 描かれているのは庄野と中本ばかりだけど、捜査に携わるチョイ役の人達も名前がどんどん出てきてちょっと混乱した。もしかしたら、「学生アリスシリーズ」みたいに何かのシリーズの短編なのかもしれない。


「スイカの脅迫状」  霞 流一
 葬式の直前に成井光邦の死体が誘拐され、一千万の身代金が請求された。ショックを受けて倒れた住職・笠木梅玄に呼ばれて、漢方医の「私」こと篠上が呼ばれた。死体があったはずの棺桶には脅迫状と、割れたスイカがあったという。身代金の受け渡しに指名された後妻の連れ子・成井守は指示であちこちに奔走させられたが、遺体はバラバラの状態で返された。
 その日の夕方、成井光邦の親友・倉石越介が自殺した。発見者は成井光邦の三男で倉石越介の娘婿の成井宗が、後輩の宇賀だった。

 関係者がわちゃっとしてて、混乱する・・・。主人公と住職の親しさ度合いもよくわからないのに、主人の奥さんの兄が居候だの、後妻の連れ子の三兄弟だの。
 トリックは面白くて、スカイの使い方も秀逸。ただ、このトリックを実行する人は単なる遺産目当てってだけじゃ腑に落ちない。死体を切り刻んだり、腕やら頭部やらを入れたバッグ類を主張してみたりと、なかなかのサイコパス。そこをサラッと流されてるのは、短編だからなのかなぁ。本格系っぽくはあるかな。


「トランスミッション」  法月 綸太郎
 ハードボイルド小説を書く「僕」のもとに、身代金請求の間違い電話が掛かって来た。寝ぼけていたために誤解を解けないまま電話が切れてしまったために、「僕」は全く同じ内容の電話を脅迫相手の安永和彦の家に掛けた。身代金請求と受け渡し方法の指示まで仲立ちを務めたが、気になって身代金受け渡しの場所に来て隠れているところを犯人グループに見付かって拘束される。財布に入っていた、自身が書いている小説の主人公の名刺「私立探偵 羽佐間彰」の名刺から誤解される。
 安永氏が雇っていた本物の探偵に助けられ、人質を送り届けると家には誰もおらず手紙があった。仕方なく自分の家に連れ帰って手紙を読むと、安永夫婦から「僕」に事情があって姿を消すから息子を預かって欲しいと記されていた。手紙の文字は、子供が病気で死んだ後に離婚した妻の文字に似ていた。

 何この、モヤッと謎を残したまま終わる感じ。前半の脅迫仲立ちは若干無理やり感があったし、捕まったところまでは普通の展開かと思ったけど、最後のびっくり展開から真実が想像つかないくらい謎過ぎる。助けてくれた本物の私立探偵が「踊り続けるしかない」と言っていたけど、一連は仕組まれた事だったわけだよね?脅迫されていた安永和彦は元妻の久美子と再婚相手?いや、何がどう仕組まれた事なのか全然わからないから、再婚したとも限らないわけか。
 人質だった子供・トモユキは、病死した「僕」の子供が成長した歳と同じくらいということは・・・どういうことか全然わかんない。生き別れじゃなくて病死だから、実は「僕」の子ってわけじゃないだろうし。
 読者も主人公も、真実がわからないままという見たことない展開。短さゆえに苦痛ではないけど、何が何だか。調べたけど、続きがあったりシリーズ物だったりとかするわけでもなさそう。初めて読んだ法月綸太郎作品、難解すぎ。


「さらわれた幽霊」  山口 雅也
 二十年前に、当時人気女優だったアン・ピーブルズの三歳の息子・ジミーが誘拐された。犯人の指示に従って身代金を準備し受け渡し場所に行ったが、犯人からの接触はなくそれきり迷宮入りしていた。ところが二十年後、ジミーの歌声が聞こえる電話が掛かって来た。その翌日に、二十年前と同じ内容の脅迫状が届いているのを秘書のミス・シンプスンが発見した。
 執事・ブランドンから別件で依頼を受けて居合わせた探偵士・ブル博士と刑事・キッドとピンクは、この件を調べ始める。

 昔のイギリス風推理小説っぽいと思ったけど、携帯電話が出てきたから現代の設定か。探偵が刑事を引き連れているのも変な感じだけど、もっと驚いたのは事件の真相に行きついて語り始めたのががキッドだった事。ブル博士が解決するんじゃないんかーい!ま、キッドの解決は小気味よかったからいいけど。真相も面白かったし、このアンソロジーの中で一番面白く読めた。
 探偵士って言葉も変だし、刑事がパンクなスタイルしてたり、探偵が刑事を顎で使ってたりと、何だか変な設定だと思って読み返したら、「探偵たちが社会を支配するパラレル・ワールドの英国」「特権階級の探偵士」とか書いてある。何だかちょっと面白そうだなぁ。いつか読んでみたい。・・・いつになる事やら。


「誰の眉?」  吉村 達也
 五歳の梨田健太が、公園で遊んでいるところを連れ去られた。居合わせた子によると、犯人は自分の眉を指さして「ダリノマユ?」と聞いたそうだ。父親・充は目撃証言から、犯人は自分の父親・竣蔵であると確信して警察ではなく精神分析医で名探偵の氷室想介に相談する。

 入り口であるタイトルの野暮ったさにちょっと期待したけど、一文目の「ダリノマユ?」にズコーッと来た。え、なに、有栖川有栖先生と仲いいの?そうでないと、この無理やりな「ダリノマユ」は不自然過ぎでしょ。竣蔵が氷室をヒムラと間違えたってシーンもねじ込んだ感があるし、「火村」という字を想像したという指摘まで怪しく見える。ちょっと吉村先生、お遊びが過ぎますよ。氷室想介が氷室京介っぽくて笑えるっていうのがどうでもよくなるくらい、お遊びが過ぎますよ。
 でも、『ダリの繭』のダジャレで眉をやたら強調しといて、ちゃんとそこに意味を持たせてあるのは脱帽。昔、若手作家のアンソロジーで西尾維新が乙一の『GOTH』繋がりで「ごすっ」という擬音から始めてたのを思い出したけど、やっぱ腕が段違いだ。
 本格推理というより心理描写メインの話だけど、それにしてもその理由で誘拐はないわーって思う。誰の眉か聞くだけなら良かった。でも、誘拐しちゃいかん。この浅さからも、「ダリノマユ」って言葉が使いたかっただけなのが伺える。


 なかなか豪華なメンバーだけど、普通の新書サイズに8人は多過ぎなんじゃないかなぁ。短さが効いてる話より、もうちょっと説明して欲しい話の方が多かった。半分がシリーズ物の話だから、魅力ありそうでその魅力が説明されてないキャラも多かったし。「トランスミッション」に至っては、是非長編で書き直してくださいと土下座したくなるほどのミステリー。作者さんの中には真実はあるんだよね?掲載された「野生時代」に、インタビューとか載ってないかな?
 「誘拐」っていうテーマだけでこれだけ特異な話が出来上がるのは凄いけど、身代金の受け渡しで場所がどんどん変わっていくタイプ、8編中3編は多いでしょ。長編だと臨場感が出そうだけど短編では、またこのパターンか、と思っちゃう。
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『赤の謎』  長坂 秀佳 他
2007-04-19 Thu 16:19
乱歩賞作家 赤の謎乱歩賞作家 赤の謎
長坂 秀佳

講談社 2004-04
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 長坂秀佳、真保裕一、川田弥一郎、新野剛志、高野和明という、過去に江戸川乱歩賞を受賞した大物作家さん達の中篇小説集。この豪華作家さん達だけに、ずっと読みたいと思ってた。


 1編目は長坂秀佳「『密室』つくります」。
 ある推理小説作家の憧れの人「喪服婦人」という謎の女性は、断片的な予知能力がある。その彼女から殺人事件を示唆した予知があったというメールを受け取るところから物語が始まる。
 その作家の家に押しかけ助手でやってきた「ピノコ」という少女のこととか、なじみの居酒屋のこととか、喪服夫人も交えてその居酒屋で行う推理問答ごっことかの説明がダラダラ続いて、やっと起こった殺人事件。でもそれはあっさり解決して、この話は終了。
 この話のメインは推理問答ゴッコにあるのか!?結局色々、何だったろうなと。


 2編目は真保裕一「黒部の羆」。
 冬山を舞台に、ライバル心を燃やしながら登る登山部学生2人と遭難した彼らを救いに行く男性を描く。
 たくさん出てくる登山用語の説明がほとんどないため、意味がわからないで眠くなった。学生の登山シーンでは一方がもう一方に嫉妬しているという設定なんだけど、意味がわからない上にちょっと暗い心理描写ばっかりで本当に嫌になる。
 最後は意外なレトリックだったけど(叙述レトリック?)、そこに意外性を持ってきてもどうでもいいし、ついていけなかった。


 3編目は川田弥一郎「ライフ・サポート」。これはわりと面白かった。
 主人公は短期の仕事を繰り返す医者。新しい仕事は、末期癌金持ち女性の娘探しにプライベートドクターとして同行してほしいという仕事。
 小説としては普通の失踪事件。失踪の謎、殺人事件などがあって、最後にはオーソドックスな結末。
 前の2編に面白さを感じ取れてなかったため、このオーソドックスさを面白いと思った。でもまあ、オーソドックスだと「江戸川乱歩」に当てはまらないよね・・・。


 4編目は新野剛志「家路」。
 突然見ず知らずの男性に刺された主人公は被害者だったはずだけど、自殺した加害者の遺書からは娘の仇を討つというような事が書かれていたために事件は一変する。
 加害者は数年前に娘を殺され、事件そのものは未解決。その犯人が主人公だったのでは?と世間で騒がれる。そのうちに実は同郷出身だったことが判明し、友達と一緒に調べに行った。
 調べに行くまでが長い!ダルいほど長い!主人公のウダウダはもうちょっと簡潔にまとめて欲しい。途中で飽きてしまった。
 父親とのいさかいを変に絡ませてあって、最終的にはいさかいその物も事件と関係していたんだけど、その関係っぷりも不自然だし。何か釈然としない。


 5編目は高野和明「二つの銃口」。
 唯一読んだことある作家さん。その唯一読んだ『13階段』があまりにも暗いし、誰もが不幸さを抱えて終わったあの読後感が嫌でそれっきり読んでないんだけど・・・。
 閉め切った校舎の中に大量殺戮者が逃げ込んできた。その校舎のワックス業者として1人でいた主人公はラジオでその事を知った直後、その殺戮者を追ってきたという男性に出会う。
 外からしか鍵が開けられない建物で(学校の校舎にそんなとこあったっけ?)その男と殺戮者と3人になってしまって助けを待つ主人公だけど、段々その男が殺戮者なんじゃないかと疑い始める。
 ところでその大量殺戮の方法、銃の乱射。余談だけど、なかなかタイムリーなネタだから雑念が入って仕方なかった。
 小説としての臨場感はこれが一番良かった。でもやっぱ、読後感悪いなぁ。モヤモヤしたものが残る。短編小説だとこのモヤモヤも好きだけど、中・長編だと主人公に感情移入しちゃってるから嫌になる。私はミステリーに向かないのかもしれない。


 ・・・うーん、微妙。やっぱ短編か長編の方が面白いなぁ。中篇って中途半端にグダグダでなおかつ説明不足な読後感が漂う。
 しかも全体的にいまいち苦手な作りが多くて、期待してただけにがっかり。この本の帯は「ゼッタイ面白い!」だけど、過剰広告だろ。それとも、江戸川乱歩を明智探偵シリーズしか読まなかった私はこの受賞者達を理解する事はできなかったんだろうか。
 アンソロジーは短編しか読んだことなかったけど、短編でも1話ずつ作風・文体が変わると疲れる。これが中篇になると、かなり苦労した。結果、そう面白いと感じられなかったけど普通のつまらない小説読了後以上の疲労感が・・・。
 次の『白の謎』は挑戦するかどうか悩むところ。
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『LOVE or LIKE』  石田 衣良 他
2006-09-10 Sun 11:06
LOVE or LIKELOVE or LIKE
石田 衣良

祥伝社 2006-07
売り上げランキング : 167090
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 6人の男性作家による淡い恋愛のアンソロジー。

『リアルラブ?』  石田 衣良
 セフレ関係にあるカナコとヤス。カナコはバイト先のチーフに恋していて、ヤスは常連客のマダムに憧れを抱いていた。
 チーフに結構本気っぽいカナコと、淡い憧れ程度の気持ちしか見えないヤス。なのに協力しようとグイグイ余計なお世話を押し付けるカナコがうっとおしい。2人の関係は石田さんっぽいとは言えるけど、短編でこれ以上の関係に進まないまま終わると「で?」で感じになる。こんな中途半端な感じで終わらせるのは石田さんらしくない。

『なみうちぎわ』   中田 永一
 5年間の昏睡状態から目覚めた「わたし」。家庭教師をしていた小学生の小太郎は高校生になり、毎日「わたし」の様子を見に来てくれていた。5年前に海で溺れそうになった小太郎と、その小太郎を助けようとした「わたし」の物語。
 「わたし」の側に居続けようとする小太郎と、マイペースな「わたし」の関係から起こる2人の会話が楽しい。乙一だという噂のある覆面作家さんだけど、会話の感じとか最後にちょっとした驚きがあるところとかは似ている。もし別人だったとしたら、もっと色々書き続けて欲しい作家さんだと思う。

『ハミングライフ』   中村 航
 小さな雑貨屋を任されている「私」は、昼休みに昼食を取る公園で猫を見付けた。その猫に毎日牛乳とカツオブシをあげることにした「私」は、ある日近くの木のウロに手紙が入っているのを見付ける。木のウロを利用して誰かとの文通が始まる。
 微笑ましい話ではあるけど、私には何だかメルヘン過ぎる。そのメルヘンさが胡散臭い。

『DEAR』   本多 孝好
 小学6年生で転校してきた笹山はるかは、社宅の隣の部屋に引っ越してきた少女だった。彼女に好意を寄せる「僕」、黒崎、舟木は、彼女を誘って4人でよく一緒に遊んでいた。笹山は父親が会社のリストラに関わっているために、段々とクラスから疎外されるようになっていった。笹山が再び転校していく前に告白した3人だったが、笹山は返事を手紙に書いて二十歳になったら教えると言って池の底に沈めた。8年後のクラス会では、AV女優となった笹山で話が盛り上がる。
 転校してきた美少女がいじめられるというありきたりな話。ありきたりはありきたりに面白いけど、短編なんだからもうちょっと捻りが欲しかった。

『わかれ道』   真伏 修三
 高2で転校してきた新川幸恵という美少女に市営球場に呼び出された「僕」。少し話して映画を見たが、そのデートをやたらと気にする女子に人気の友人・本神。他の人には一度デートしただけの「僕」と付き合ってると言っている新川を気にしつつも、話しかけることはできないでいた。
 2話続けて美女転校生の話がくると、ちょっと「またか」って思う。「僕」の気持ちも曖昧だけど、新川の存在そのものが浅くて掴みどころがない。そのために話自体がただの夢オチになってもおかしくないぐらい淡い。

『ネコ・ノ・デコ』   山本 幸久
 真弓子が経営する「ネコ・ノ・デコ」はつっ気ごとにアーティストの作品を展示・販売をしている。その日は新しい客であるボンジュール野火止と会う予定になっていたが、実際会ってみると彼女は高校時代の同級生・藤枝美咲だった。彼女から高校の同級生が集まる飲み会の様子を聞いた真弓子は、数年前まで働いていたランジェリーパブに高校の同級生である橋本と大河原が来た時の事を思い出した。
 これまでの5話とは違う感じがした。生活のために働いていたランジェリーパブに高校の時に好きだった大河内が来てしまい、開き直った接客を始めた真弓子を見て彼は怒ったように帰っていく。大河内は真弓子を振ったはずだけど不愉快になってしまう彼の気持ち、男心は複雑だなぁ。空気を読めなさすぎの橋本には腹立つけど。

 祥伝社が 『I love you』 と同じような主旨で作った物だとは思うけど、執筆者のネームバリューだけじゃなく内容の充実度も随分劣るようだ。いいなと思える話もあったけど、大半はスカスカした妄想恋物語だと思う。
 
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『I love you』  伊坂 幸太郎  石田 衣良  市川 拓司  他
2005-10-14 Fri 20:23
I love youI love you
伊坂 幸太郎

祥伝社 2005-07
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おすすめ平均

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 6人の作家が「恋愛」をテーマに書いた短編集。
 まず1話目は伊坂幸太郎の「透明ポーラベア」。最近気になってた作家なんで、ちょっと楽しみに読み始めた。伊坂幸太郎を最初に持って来るとは心憎い。でも私的にはちょっと期待外れかな。何を面白いと思って読み進めたらいいのかわからなかった。もしかしたら私が恋愛モノ苦手だからか、案外微妙な作家だなぁと思った。
 でもやっぱ最後まで読んだ時の完成度の高さは凄い。ちょっとあり得ないけど、フィクションとしていい感じで読み終われた。

 2話目は石田衣良の「魔法のボタン」。これは好きな作家だけど、この人の恋愛小説は初めて読む。期待を裏切らない、すっきりと読める石田衣良らしい小説だった。こういうのは好きだな。

 3話目は市川拓司の「卒業写真」。これは面白い。この本の中で一番、万人受けする話じゃないかなぁ。ちょっと混乱するけど、そこがまた良かった。

 4話目。とうとう来た!この作家のために、恋愛アンソロジーなんかタルい物読んだんだっ!中田永一の「百瀬、こっちを向いて」。ネットする乙一ファンなら聞いたことあるはず。そう、乙一がペンネームを変えて書いたという噂のこの人!謎多きこの人!
 確かに似てた。激似。確信とまではいかないけど。私が乙一が好きな理由は、彼の文章が私にとって非常に相性がいいから。最初の数行でスコーンとのめりこんで読んでしまう。それがこの中田氏にも感じられて、例え別人だったとしてもこの小説は好きだと思う。タイトルは変だけど、読んでみると納得できるタイトル。最後にほっと息をついて、気になってたことが余すとこなく解決してるところも私好みだった。

 5話目は中村航の「突き抜けろ」。アンソロジーで必ずいるよね、こういうちょっと軌道が外れたの書く人。恋愛小説じゃないよね、これ。中心は野郎同士で青春して、それに無理やり主人公のちょっと変わった恋愛をねじ込んだみたいな。恋愛の部分、むしろない方が面白かったように思う?

 6話目、本多孝好の「Sidewalk Talk」。唯一大人な話だった。離婚を決意した夫婦が最後の食事をし、付き合い始めの頃を思い出しながら話すというもの。お互い気持ちは残ってるっぽいけど、それでもやっぱり離婚は変わらないらしい。大人の世界すぎて未婚の私には難しいけど、「いい離婚」って感じで良かった。最終話にふさわしい話だったと思う。 

 全部書いてから気付いたけど、収録は著者の50音順?じゃあ伊坂幸太郎が最初だったのは偶然か。
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