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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『未来』  湊 かなえ
2019-06-11 Tue 13:47
未来
未来
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湊 かなえ
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 章子の母・文乃は美しい容姿を持ちながら精神的に不安定で、頻繁に人形のようになってしまう。章子は優しい父親と共に母を守りながら穏やかに暮らしていたが、小学4年生の時に父親が病死してしまった。葬式の日に倒れてしまった母親を支えようと家のことを頑張っていた章子に、20年後の自分から手紙が届いた。それから章子は、何かあると未来の自分に向けて手紙を書くようになった。
 母親は相変わらず、人形のようにスイッチがオフになったり、家事やお菓子作りができる程度のオン状態になることを繰り返した。頭がよくしっかり者の章子は、母親を支えながら一生懸命生活しようとする。しかしながら無力で、大人のエゴに翻弄されたり、嫌味なクラスメイトに精神的に追い詰められたりする。
 章子の物語と、章子をいじめから救った影のある同級生・亜里沙、4年生の時の担任・篠原、章子の父・樋口良太の学生時代の、それぞれの視点の話。 
 
 亜里沙の話。
 亜里沙の父親は、妻に暴力を振るった翌日には果物を買って来る男だった。妻が死んでからは我が子である亜里沙と健斗を殴っていたが、亜里沙の担任が訪ねて来てからは健斗だけを殴るようになる。
 面倒なクラスメイトに目を付けられたこともあり不登校になっていた亜里沙は、幼い頃に仲が良かった2歳年上の智恵理に再会した。彼女の存在に安らぎを覚えていた亜里沙は、自分と同じく不登校になっていたことを知った章子と仲良くなった折に智恵理を紹介し、章子も智恵理を慕うようになっていた。
 ある日亜里沙は智恵理の別人格に会う。

 章子、亜里沙の4年生の時の担任・篠宮先生の話。
 篠宮真唯子は、大学の時にポルノ映像に出演したことがある。育ててくれた祖母の希望を叶えるために教師を目指していた真唯子は、祖母が亡くなった折に母親から全財産を取り上げられそうになる。学費の支払いに悩んでいた時にスカウトして来た時任と名乗る女性の話に乗ってしまい、真唯子は言葉巧みに騙されポルノ映像に出演してしまった。しかしその後、祖母は法的に手続きをしていたために財産は守られることがわかる。
 そのことをPTA会長である実里の母親に糾弾され、教師を辞めることになった。その前に問題を抱えていそうな子ときちんと向き合おうと、入院している章子の父親を訪ねた。そこで父親から、章子宛に未来からの手紙を書いて欲しいと頼まれる。

 章子の父親の話。
 樋口良太は容姿の悪さのせいで幼い頃から周囲から遠巻きにされていたが、県内でも有数な進学校に入学したことで少しずつ積極的な性格になっていった。1年生の時にボランティア部を立ち上げ、月に一度手作り菓子を近隣の福祉施設に届ける活動をしていた。
 2年生の時に、美しい容姿ながら流暢に暴言を吐く森本誠一郎と同じクラスになる。暴言を吐かれたクラスメイトを庇ったことから彼からターゲットにされたが、ある日言い返して口論になった時から森本に面白がられるようになった。
 夏休みのこと。森本は良太を自宅に呼び、自分の妹・真珠の体を好きにしていいと言い出した。美しい真珠を前に一度は理性が飛んで乱暴をした良太だったが、森本に頼んでもう一度会わせてもらい、一緒にお菓子作りをするようになった。
 人形のようだった真珠が次第に笑うようになったある日、良太は森本から父子相姦が行われていることを見せつけられた。森本は真珠のために自分が父親を殺すから、良太に火を点けて欲しいと頼む。


 最初の不幸は、フィクションではよくある程度だった。結構前に読んだ同著者の『Nのために』に登場していた女性も、理由は違えど父親がいなくなってダメ母親の面倒を見ながら生活してたことを思い出しながら読み進めた。母親に「オン」の状態が続くようになって幸福を感じることもあったし、章子が早坂から暴力を振るわれるようになった時も、実里のいじめも早々に解決する。湊さんにしては不幸が浅くて揺さぶられ感は少ないけど、何か読ませられちゃうのは凄いなーなんて思いながら読んでた。でも章子の周囲に目を向けた時、不幸がゆっくり加速していった。
 暴力の被害や人の死、性的暴力。立場の弱い者は逃げる方法はなく追い詰められて、究極の逃亡をしてしまう。智恵理さんも健斗も、そして文乃さんもこれ以上ないくらい辛い思いをしてきたと思う。ただの性悪少女と思ってた実里も、比較したら浅い不幸だけど親に原因があった。文乃さんは守ってくれた良太さんと死別すると、結局同様の不幸があった。今度は章子の存在が足枷になったんだろうか。
 章子に一刻の愚かな優しさを向けた猪川が実はブチ殺したくなるくらいの変態だったとか、レストラン「HAYASAKA」を紹介した歯科医の相手を文乃さんがさせられていたとか、そういう伏線が巧み過ぎて、もう心臓潰れそう。
 死んでしまった健斗に代わって復讐を決意した亜里沙、家に火を点けた智恵理さん、同じく家に火を点けた章子を逃がした文乃さん、ゆっくりでもいいから幸せに向かって行って欲しい。特に文乃さんは、林先生くらいで手を打ってた方が良かったんじゃないか。章子の推測通り実兄に似てるから罪滅ぼしだったとしたら、実兄はちゃんと改心して信頼できる奴に後を頼んでくれたじゃないか。その気ち、ちゃんとわかってよ・・・。
全編を通して憧れの象徴のようにドリームランドというテーマパーク、過去の幸福の象徴的な食べ物としてマドレーヌ、シャインマスカット、そうめんが出てくる。その存在が失われた過去の輝きのようでもあり、未来にまた訪れる希望のようでもある。
 ああ、今回も目を逸らすことができない圧倒的な文章力に吸い寄せられてしまった。でも最後に、ちゃんと解決法を見出した章子は偉い!さすが賢い子だ。普通に子供を思う大人がたくさんいる場所で、ちゃんと保護されて真っすぐに生きて行って欲しい。もちろん、文乃さんも一緒に。
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『絶歌』  元少年A
2019-05-28 Tue 16:58
絶歌
絶歌
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元少年A
太田出版  2015.06
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 1997年に起こった、神戸連続児童殺害事件の犯人の手記。警察に任意同行された日の話から始まり、幼い頃に慕っていた祖母の話、祖母の死をきっかけに起こした異常行動の数々、抑えられなくなっていく凶暴性、捕まってからの話、少年院から釈放されて保護観察期間の話、職を転々とする話など。


 被害者の幼さと相反する残忍な殺し方、稚拙な煽り文の手紙、捕まった犯人の年齢、徐々にわかっていく余罪、日常行動の異常性などなど。ベタな言い方だけど、世間を震撼させたセンセーショナルな事件だった。当時まだギリギリ十代だった私は、あの残虐な犯人が自分より年下だったことに衝撃を受けたのをよく覚えている。
 あの犯人がどの面下げて手記なんぞ出したのかという思いと、深淵を覗いてみたいような好奇心から読んでみたいと思った。奴に印税が入るのは絶対に嫌だったから、図書館で借りることにする。私が住んでいるところは人口がそこそこ多くて結構大きい図書館があるけど、購入したのは1冊のみで閉架書庫扱い。著者の印税に貢献したくないけれど、図書館として市民の知る権利に応えなければならないという葛藤が伺える。
 さて、中2から少年院で過ごしたはずのAだけど、文章力には大いに驚いた。正直、上手いし文才あると思う。語彙力もあるし、言いたい事をどんな順序で書いたら伝わるか、ちゃんと計算された文章だ。そこにAが自身に酔ってる感がものすごく漂ってて、「あ、こいつ反省してないな」と思った。Aが自分の内面を語る時の純文学っぽい自己陶酔が、快楽殺人を犯したあの時と、根底は変わってないように思う。文章からして、被害者を晒し物にしたあの時の目立ちたがりの自己顕示欲が臭う。家族愛とか絆とか、まるで美しく描いてるけど、もはや滑稽。母親の問題行動とか、知らんわけでもあるまいし。
 この本の出版に当たって賛否両論というか、否定的な意見をかなり多く読んだ。ご遺族の方々には申し訳ないけれども、私は「賛」の方だ。Aが根本では変わってない事を世に知らしめるという意味があったと思う。精神鑑定した人とか、更生に携わった人とか、良い結果を出すことを求められた人が書いたんじゃ意味ない。AがA自身の言葉で等身大に語って、結果どうしようもなく自己中心的な変態だという動かしがたい事実を世に知らしめた事は良かったんじゃないかな。あとは執拗なマスコミの存在に期待。懸念すべきは信じられない事にAを崇拝する若者が存在するという事だけど・・・。
 加害者が少年法の下に守られ、情報が遮断され、刑罰ではなく更生の機会が与えられる。もし身近にこんなサイコパスがいたらと考えてしまう。同じ市内にいたら?町内にいたら?万が一被害者になったら?もし、我が子が加害者側だったら?そしたら私もAの母のように変な手記を出したり、我が子が這いつくばってでも生き延びることを願うんだろうか。極論の、お前を殺して私も死ぬっていう道を選ぶんだろうか。
 このAをどうするのがベストなのか、どうすればこんな事件が起こらなくなるのか。私の数千倍数万倍賢い人達が考えても結論が出ない事を私が考えても詮無いことなんだけど、色々考えてしまう衝動は抑えられない。これがフィクションだったら、どんなに良かったろうか。
 変な有料サイトを開設してたらしいし、やっぱり更生は無理だったんだと思う。そこからどうすべきだったのか、無知な私にはわからない。一生閉じ込めておくべきだったのか、極刑に処すべきだったのか。ああ、でも無責任に思わずにはいられない。こんな奴、早く死ねばいいのに。
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『羊と鋼の森』  宮下 奈都
2017-06-26 Mon 23:29
羊と鋼の森
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宮下 奈都
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 第13回、2016年本屋大賞受賞作品。
 「僕」こと外村は、北海道の辺鄙な集落出身の青年。高校生の時に調律師・板鳥のピアノの調律に居合わせて深く感動し、調律師を目指す。専門学校を出て調律師となった外村は板鳥と同じ会社に楽器店に就職し、7歳年上の先輩・柳の調律に同行して修行を積んでいく。会社のピアノを何度も調律したり、皆無だった音楽の素養を埋めるためにクラシックのCDを聴き込んだりと、考え得る限りの努力を続けるが、理想の調律にたどり着くのは非常に難しいことだった。


 グランドピアノの屋根が開いた時に「森の匂いがした」と表現し、心に浮かんだ森の様子を語る冒頭から繊細で美しく穏やかな表現が際立った話だった。音楽と文学の間って感じ。これで心揺さぶるような出来事が入ってたら、ドはまりしただろうなぁ。
 調律って、ただ決まった音に合わせるだけじゃないんだね。ピアノの弾き手によって求める音の出方があって、それは弾き手にしかわからない。下手したら弾き手にもわかってない。曖昧な感覚表現を、調律師と客とのコミュニケーションの中で探っていくしかない。その表現が、音楽なのにとても文学的だった。
 でも私はちょっと肌に合わなかったなぁ。読み始めで、これ苦手なやつかも・・・と思った通り。女性が描く男性主人公って、たまにこんな感じの生気ない草食系男のになるのは、あるある話だと思う。それが物語の静かさと相まると、ちょっと退屈。静かで美しい表現の話が大きな山場を迎えた時と収束する時の感じは大好きなんだけど、残念ながらこの『羊と鋼の森』は大きな出来事もないまま終わってしまった。主人公の努力もどことなく他人事のような語りだし、職場の人もいい人ばかり。お客さんも奇抜な人はいない。ヒューマニズムが薄かった。 
 強いて言えば、外村が気に入っている双子の高校生の陽キャラが精神的な病気でピアノが弾けなくなった事かな。でも、掘り下げることなく前向きにあっさり終わった。祖母の死によって弟とのわだかまりが少し解消した事とか、長年調律しないまま弾かれていたピアノの調律後に持ち主が弾いた「子犬のワルツ」が素晴らしかったとか。うーん、どれも些細な出来事に過ぎない。
 表現も場面も穏やかで静かで美しい。読んでいて穏やかな気持ちになれるんだけど、私はもっと気持ちが揺さぶられる話が好きだから、こんなα波出てるような文学は苦手。読んだことある本屋大賞受賞作品が、ワクワクする話とか滂沱の涙が出る系の話が多かったから、変な期待もあったのかもしれない。本屋大賞ってもうちょっとエンタメ性がある物だと思ってたけど、純文学みたいなものが選ばれることもあるんだなぁ。でももし、私にピアノが弾けたらもっと感動できたのかなぁ。
 あ、点在する名文は秀逸だった。印象深かったのは女子高生・和音が「ピアノで食べていこうなんて思ってない」「ピアノを食べて生きていくんだよ」というシーン。それから、お客さんに恵まれていると言う外村に「何かに恵まれてはいない。外村の実力だ」と言う先輩の言葉。それから中盤に遡るけど、「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない」という外村の考え方は、本当に胸を突かれた。
 今もそうなのか知らないけど、私が子供の頃は「誰もが何かの才能がある。自分の才能を見付けるために色んな事にチャレンジしよう」という考え方がメジャーだった。その探し方もわからないまま大人になって、ただのダメ人間になってしまったわけだけど。「才能」が不確かな物って考え方に、そうだ!確かにそうだ!と、じわじわ納得していった。実力は「ある」んじゃなくて、付くものなんだ。才能がなくても、実力は付くんだ。チャレンジするって事が苦手な私にとって、深い感慨を呼び起こす文だった。

 最後に内容とは関係ないことであり、感じたのは私の集中力不足のせいかもしれないけど、場面転換がわかりにくくて前に戻って読み直した事が数回あった。章が途切れて数行空くのがちょうどページの境目だったりページ終わりだったりで、章が変わったのに気付かないで読み続けて違和感を覚えて読み戻す。車に乗ったはずなのに突然歩きながら話してたり、会社で話してたはずなのに客先にいたりして、あれ?ってなる。章と章の間がわかりにくいだけじゃなくて、場面が変わっても雰囲気が変わらないからしばらく違和感ないってのが原因だと思うんだよね。
 1回くらいなら目が滑ったと思ってスルーするけど、3回くらいあってちょっとイラッとした。
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『四畳半神話大系』  森見 登美彦
2016-11-09 Wed 12:19
四畳半神話大系
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森見 登美彦
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 実益のあることは何一つしていない堕落しきった大学三回生の「私」が送った、4種類の大学生活を描くパラレルワールド。
 一回生の時に、配られたサークルのビラの中から映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という奇想天外なビラ、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関〈福猫飯店〉の四つに興味を惹かれていた。
 各章でそれぞれのサークル所属するも、堕落していき同じ人物達と関わり合っていく。


 眠くなるくらい退屈だった。尊大で持って回った語り文は嫌いじゃないけど、長々と続くと疲れる。どことなく不潔な雰囲気で駄目すぎる人格の「私」や小津や樋口師匠、なぜか悪くない見た目の女性達とはまあまあ仲良しな間柄、盛り返す事なく終わっていく展開。何も共感できず、尊敬もできず、主要人物達に侮蔑感を抱いたまま、でもなぜかちょっとハッピーなラストでそれぞれの話が終わっていく。各話で全く同じシーンが全く同じ文書で出てくるのも、展開が退屈なだけに辟易する。
 何なのかこれは。これが有名な『四畳半神話大系』なのか。いや、どっかできっと面白くなるんだろうから期待しよう。最後だ、きっと最後は凄いんだ!と自分を奮い立たせて何度も中断しながら読み続けて、とうとう最終話。果てしなく続く四畳半で遭難が始まった時に、「来た!」って思った。
 行けども行けども四畳半が続く中とうとう香織さんがいる部屋に来て、ようやく私は著者さんの意図を理解できた。4種類の大学生活は、「もしも」じゃなくて全部並行世界としてこの世界に存在するわけだ。一回生の時に気になった4つのサークルだけじゃなく、人生の色んな分岐点でそれぞれ並行世界が発生するとなると、その数だけ自分じゃない自分がいるわけで。そして、どの人生を選んでも同じ人達と関わり合い、場合によっては明石さんとの恋が成就する。四畳半は今後もどんどん増え続けるけど、「私」が死んだら消滅するのか存在し続けるのか・・・。
 80日間遭難して外に出てみるとそれほど時間は経ってなかったという事は、四畳半の一瞬を80日間彷徨っていたという事になるわけで。偶然元の部屋に戻ったのか端と端がつながっているのかとか、それぞれの四畳半の外にも外界があるはずだとか、世界の膨大さとか、何この急に没頭させられる展開は。
 結局のところどの選択をしたところで人生はそう変わらないと感じさせられつつ迎えた4話。1~3話はずっと同じ会話で終わってたのに最後の最後だけほんのちょっと違って、また考えさせられる。もしかして選択によって変わるのか?でもたったこれだけの日常会話では判断できない。でも「私」は四畳半を彷徨った挙句、唯一違う会話をしたわけで・・・。と、このラストが意味するところを無駄に考え込んでしまう、この余韻は結構心地よい。
 全体で見ると面白いし、他の話でわからなかった細部も見えてくる。でも部分が冗長でつまらなかった。
 男だったら、もうちょっと「私」に親近感覚えられたのかもなぁ。あくまでイメージだけど、大学で堕落しちゃう男、小汚い男は必ず少数いそう。女子大出身の私の周囲は堕落した同窓生でもまあまあ小奇麗だったし、小汚い女って本当身近にはいなかったと思う。だからこういう男が身近にいた例が全くなくて、ただの嫌悪の対象でしかない。そんな奴が主人公だったから、幸せなラストを迎えても感動ゼロだったわけで。
 『有頂天家族』の主人公のごとく、他者には真似できない事を面白おかしくやってのける奴だったらこの話も大好きだったのかもなぁ。「私」も変な事は過去にいっぱいやったっぽいけど、どれもあんまり洒落にならない。キャラクター小説ではないとはいえ、魅力ある主人公って私にとってはこんなにも重要だったんだなぁ。
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『有頂天家族 二代目の帰朝』  森美 登美彦
2016-09-08 Thu 12:37
有頂天家族 二代目の帰朝
森見 登美彦
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 シリーズ2作目。かつて赤玉先生が自分の息子として育て、一人の女性を巡って大喧嘩した「二代目」が英国から帰って来た。二代目は恋敵となった父を恨み、受けて立った赤玉先生、訪ねてきた挙句高慢に振る舞う弁天と対立する事となった。
 ツチノコ探しがマイブームの下鴨矢三郎は相変わらず「面白きことは良きことなり!」をモットーに、天狗や人間に良い顔をしつつ生きている。
 下鴨家とは犬猿の仲である矢三郎の叔父・夷川早雲は金曜倶楽部の布袋の座を希望していたが、ひょんな事から矢三郎が布袋にされてしまう。人間の前で化けた早雲は寿老人の手下である天満屋から銃殺されてしまい、居合わせた矢三郎は狸界で早雲殺害の噂を立てられた。そんな中で執り行われた早雲の葬式だったが、旅に出ていた夷川家の長男・呉一郎が帰還する。
 彼は下鴨家へ和解を申し出ただけでなく、矢三郎の早雲謀殺論を一掃し、狸界の頭領「偽右衛門」選挙に立候補した矢一郎を応援した。総選挙の立会人は赤玉先生に頼んだが、赤玉先生は弁天を後任にすると言い出す。弁天を招くのが嫌だった狸達は、矢三郎の提案で二代目に立会人の依頼する事にした。弁天の怒りを買った矢三郎は琵琶湖に潜伏したが、家出して来た海星と共に天満屋に捕まって金曜倶楽部に献上されてしまった。


 待ってました、第二弾。三部作だと知って以来、出版されてないか時々調べては落胆する日々だった。一巻から約十年の時を経て出版。やっぱ好きだなぁ、厳かなのかふざけてるのかわからない文章と雰囲気。独特な擬音も好きだし、妙に古典めいたところも好き。普通ならきっと「阿呆の血がそうさせるのだ」とでもするところを、「阿呆の血のしからしむところだ」と書かれてるとことか超好きだ。でもってやっぱり私は家族物に弱いと思う。普段から家族仲のいい下鴨一家だけど、矢三郎の危機での矢一郎の暴れぶりには今回も感動。
 一章から六章まではプラプラ愉快に暮らす矢三郎だったけど、その分若干退屈だったのは否めないかな。新しくて捻りあるキャラ達は楽しいけど、エピソード自体は比較的穏やかで矢三郎が調子良く生きてるだけに見える。矢一郎と玉瀾の恋とか、距離感もくっつき方も可愛いんだけど盛り上がりには掛ける。火花を散らす天狗達も、赤玉先生にも二代目にもいい顔をする矢三郎も、愉快だけど物足りない。それが七章で、ガツンと1作目の面白さを超えた。玉瀾も加わったファミリーの更なる団結に、狸って本当に素晴らしいですね、って某映画評論家みたいな状態になってる。
 ところで矢三郎は、結局海星ちゃんに惚れちゃったんだろうか。てっきり今でも弁天が好きなんだと思ってた。まさか、姿を見れば化けの皮が剥がれるほど海星ちゃんが好きだとは。それでいて、ラストにはやっぱり弁天。弁天も何だかんだ言って矢三郎は特別っぽいし。まあでも、矢三郎は狸なんだしね。
 矢一郎は偉大な父と同じ「偽右衛門」になり玉瀾と結婚、矢二郎は薬さえ飲めば蛙から戻れるようになったけど旅立ち、矢三郎はお調子者に磨きが掛かり、矢四郎は・・・矢四郎は・・・研究家になってる?まあまだ幼いから置いといて、でも全員大なり小なり1作目より成長してるのが、読んでて嬉しかった。
 次はいつ出るのかなぁ。また10年近く掛かる?今回は赤玉先生は情けないのか偉大なんだかわからなくなってきたんだけど、次回で実は凄かったとかならないかなぁ。結構好きなんだよ、赤玉先生。弁天と二代目の戦いで、髪を燃やしながら堕ちていった弁天より、燃える邸宅に天狗風を吹かせて捨て鉢にも見える二代目の方に来るとは。彼の威厳は、ただの過去の栄光なのか、本物なのか気になる。
 この話を読むと、赤玉ポートを飲みたくなる。できれば電気ブランも飲みたいところなんだけど、行動範囲の狭い私が口にする日はあるんだろうか。
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