元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『とりつくしま』  東 直子
2008-08-31 Sun 21:21
とりつくしまとりつくしま
東 直子

筑摩書房 2007-05-07
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 死んだ主人公に「とりつくしま係」が、この世の何かに取り憑くことができると言う。生き物にはなれないけど、物にならなれる。主人公が選んだ物は・・・。という11編の連作短編集。

ほんの少し一緒にいるだけでいいと、息子が野球の試合で使うロージンバッグの中の白い粉になる「ロージン」

夫の愛用するマグカップになり、夫の新しい恋人を目の当たりにする「トリケラトプス」

ばった公園のジャングルジムになる「青いの」

ときどき顔を見るだけでいいと、敬愛する書道家・浜先生へプレゼントした白檀の扇子になって先生と奥さんの会話を聞く「白檀」

図書館でいつも自分のような浮浪者に微笑みかけてくれる小雪さんの名札になる「名札」

アドバイスを送りたいと、母親の補聴器になる「ささやき」

妻が自分に宛てた手紙として書き続けている日記帳になる「日記」

リビングで家族を見守りつつ、家族をマッサージしてあげたいとマッサージ器になる「マッサージ」

好きな先輩の彼女のリップクリームになる「くちびる」

孫がレンズで覗くものを一緒に見たいと、孫に買ってあげたカメラになった「レンズ」

番外編として、病に伏した娘に頼まれて髪の毛をびわの樹の下に埋める話。髪を埋めた辺りから宿り草が生えてびわの樹を枯らしてしまった。びわの樹は、娘が好きだった新右衛門の食べたびわの種を娘が植えたものだった。新右衛門はその木が枯れた日に死んでおり、宿り草からは娘が喜ぶ声がした。

 誰もが読みながら、自分なら何を「とりつくしま」にするだろうと思った事だろう。私は何だろうか。考えたけど思い付かないんだな、これが。やっぱり配偶者を見守りたいとは思うけど、別の人と幸せになって欲しいと思うから長く使う物は困る。ていうか、配偶者が悲しみに暮れるのを見とくだけっていうのも嫌だし、あっさり立ち直ったんなら見守るまでもなく私は昇天したいかなぁって思う。子供がいるんなら変わってくるのかもしれないけど、今のとこは死んだらさっさと地獄にでも行くか。というわけで、私の結論は「とりつかない」。短編なので息抜きを交えながら、こんなことを考えつつ読んだ。
 ひとりひとりが営んできた人生の果てにある、優しいような悲しいような物語。奥付の著者紹介見て知ったけど、歌人さんだとか。どうりで文章のリズム美しくて、すーっと心に入ってくると思った。
 私は「くちびる」が良かったな。池上先輩が好きだけど、彼女の綾香先輩のことも尊敬してる。綾香先輩のリップになって、彼らの様子にドキドキしてる主人公がかわいい。特に最後のキスシーンで、綾香先輩のドキドキと主人公のドキドキがかわいいなと。
 やるせない気分になったのは「ささやき」。我儘な母のために補聴器になったけど、この傲慢な母親の様子が何ともイラつく。「わたし」のことも面倒がってた母親だけど、それでも愛していた主人公。でも「わたし」た取り憑いてる補聴器も捨てられて終わりだなんて、何ともやるせない。最初の「ロージン」で母親としての心配を描いておいて、これなんだもん。
 同じく身内に裏切られる「レンズ」では、自分が死ぬとさっさとカメラを売ってしまった孫に腹は立った。でもこのおばあさんがさっさと切り替えて、中古ショップで自分を買ってくれたおじいさんが撮ろうとする風景を見るのも悪くないと考える。新しくてのどかな幸せの予感がして、いい。
 今後どうなっていくのは気になる話も結構あって、少しモヤッとした物が残ったりするのもあった。思い返すと「ロージン」が一番いい終わり方のような気がする。
 全体的にあまり大きな起伏はないぶん安定して読めた。最近続けてダークでディープな本を読んでちょっと影響を受けて陰鬱とした気分になってたから、非常に心に沁み入ってきたように思う。
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『ベルカ、吠えないのか?』  古川 日出男
2008-02-25 Mon 12:46
ベルカ、吠えないのか?ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男

文藝春秋 2005-04-22
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 第二次世界大戦中、日本軍の撤収でキスカ島に取り残された4頭の軍用犬がいた。彼らはアメリカ兵に拾われてアメリカで番い、子孫曾孫玄孫がそれぞれ人間の運命に弄ばれて数奇な生涯を送る。4頭の犬から始まった、第二次世界大戦以降、冷戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争、ソ連崩壊に関わらされていくの犬の戦争史。
 それとは別の物語が同時進行する。ロシアンマフィアとチェチェンマフィアの抗争が起こり、日本人ヤクザの娘が巻き込まれて誘拐される。終始毒づいているヤクザの娘は、軟禁先でたくさんの犬が訓練されているのを見る。彼女はまだ訓練前の子犬に話し掛け、中でも47番を特別にかわいがるようになる。

 1~2年前に本屋大賞で何位かを獲ってるんで読んでみた。タイトルからして、犬の愛くるしい話かかわいそうな話だと思ってた私が馬鹿でした。本当に大馬鹿でした。何この壮大さと斬新さは。無機質さは。そして理解のできなさは。
 まず「ベルカ」が全く出てこない。もしかして犬の名前じゃないのか?ってくらい出てこない。やっと出てきたと思ったら、やっぱメインは犬全体とヤクザの娘だったりとかして理解不能。最終的に「吠えないのか?」の意味も理解できなかった。セリフとして1回出てきたけど、何で吠えないのかと聞いたのかがわからない。
 そもそも書き方がすごく淡々としている。感情が入り込む余地が全くなくて、文の流れも荒々しい。で、私自身が読み込めなかった結果が理解不能なんだと思う。多くの人が良い本だと褒めそやしてるのに、理解できない自分が不甲斐ない。
 で、ベルカとストレルカと大主教の目的すらも理解できなかったんだから、この本が楽しめたはずがない。誰かに解説してほしい気分。
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『明日の記憶』  萩原 浩
2007-09-18 Tue 12:38
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荻原 浩

光文社 2004-10-20
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 映画化された時にちょっと気になって読んだ本。随分前だけど。
 主人公の雅行は広告代理店に勤める50代の男性。最近物忘れががひどくなってきたのは年齢のせいだと思っていた。しかし彼は病院で、若年性アルツハイマーだと診断される。
 日記をつけ、ポケットにメモをたくさん入れ、アルコールを断ち、食生活に気をつけても症状はどんどん進行していく。中には雅行の病気に付け入る人も出てきて、悲劇に拍車が掛かる。必死で支える妻の枝美子も追い詰められていき、どんどん暗く重い物語になっていった。唯一、娘の結婚式の様子だけが和む。
 著者の筆力にぐいぐい引っ張っていかれたけど、扱うテーマがこれだからハッピーエンドになるはずがない。若い頃だけを鮮明に思い出して行動し、最後はきれいにまとめてあってもやっぱり悲劇だった。
 アルツハイマー症の研究はどんどん少しずつ進んでいるようだけど、まだまだ明確な治療法はない。しかも誰にでも起こりうる。私もなるかもとか、配偶者がなったら、とか考えずにはいられない本だと思う。
 ただ、日記の様子は『アルジャーノンに花束を』、身の回りがメモだらけになっていく様子は『博士の愛した数式』と丸かぶりなのが残念だった。
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『南京事件「証拠写真」を検証する』  東中野 修道  小林 進  福永 慎次郎
2007-07-27 Fri 14:02
南京事件「証拠写真」を検証する南京事件「証拠写真」を検証する
東中野 修道

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 南京大虐殺が捏造だという説も結構有力だって知ってる人はどれくらいいるんだろうか。私が知ったのは数年前で、その時は少数派の意見だと思ってた。でも結構有名な説だったみたい。ちなみに、前の職場の人達はこの本を見計らいで見て「え?何言ってんの?」みたいな感じだったから、女性が普通に生きてて耳にする説ではないっぽいんだけど。
 この本では写真に着目し、証拠写真3万枚の中から百何十枚かの合成やらヤラセを検証している。ひたすら淡々と、写真の不自然な箇所を指摘していく本。
 普通の写真のみで事実かどうかを論じる“史料”にはならないらしいけど、一般人の目にまず入ってくるのは写真。センセーショナルな写真も多い南京大虐殺だから決定的な物ではないけど、一般人に訴えるにはわかりやすい。
 ただ、有名な捏造写真も結構な数で載せていて、それをまるで自分らが検証して発見したかのような書き方をするのはどうかと思う。
 結局この本が示してるのは、こういう嘘写真もあるよって程度。嘘が証明できない写真は取り上げていない。また、「○○とは考えにくい」というような論拠に乏しい表現も多い。
 全体として、言いたいことはわかるけど説得力に欠ける本だと思う。でも、有名な捏造写真を全く知らないで読んでたら驚いたのかもしれない。
 この本ではさらっとしか取り上げてなかったけど、私が知ってる捏造説の根拠はそれなりに説得力はあると思う。30万人虐殺されたと言うわりには事件前後の人口がとか、滞在していた諸外国の記者がどーのとか、プロパガンダがこーのとか、何とかかんとか色々な根拠が挙げられている。だからってなかったと断言もできないし、まあどちらかというとどっちでもいい。ただ、チベットに凄まじい民族浄化活動やってる中国が色々言うなというのが私の認識。
 アマゾンで見たら、結構高評価なのに驚いた。こういう本って叩かれるのがセオリーだと思ってたんだけど。もちろん、被害者がいるのに捏造だとは何事だ!みたいなのもあったけど。

 この手の説ではよく、GHQの洗脳のせいで日本の戦争教育が自虐的過ぎるとか言われてる。そこで、私自身の戦争教育を思い出してみた。
 私の出身は長崎で、最近知ったんだけど戦争教育が他県より力はいってるようだ。南京大虐殺と聞いて思い出すのは高校時代。日本史の先生がサドだったんで、「受け持ってる全クラスに南京大虐殺のビデオを見せる。時間は全クラス、4時間目(昼食の前の授業)に見せる」と言っていた。私は当時からホラーは苦手なのにグロは平気だったから、普通に見てた。でも思わず俯いた女子が先生に怒られたりしてたし、多くの女子がハンカチを口に当ててたなぁ。
 中学の時の社会の先生は、わりと偏りなく教えてくれたと思う。日本がどう他の先進国から追い詰められたかとか、占領か戦争かの風潮とか。この下地があったから、高校での戦争教育は平気だったのかも。
 小学校の時は、手記を読まされた。被害者側の男性の物と女性の物。男性の方はまさに虐待。女性の方は暴行。今思うと、男性側はあそこまでされてよく殺されなかったなと思うし、女性の手記はまるでポルノ小説。小学校高学年に読ませるには問題がある手記だったんじゃないだろうか。
 教育ってやっぱ、先生の好みなんだな。
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『淳 それから』  土師 守  本田 信一郎
2007-05-22 Tue 10:45
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土師 守

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 事件から8年が経ち、少年Aが社会復帰した2005年に出版された本。8年間、土師さんは弁護士と共に少年法の壁と戦い続けたようで、彼の努力で遺族に対する制度が変わりつつあるようだ。
 その課程で山口県光市の強姦殺人で奥さんを亡くした本村さんとも出会い、被害者の会を発足して今日もがんばっているとか。
 前の『淳』を読んで思ったんだけど、土師さんはかなり頭がいい人だと思う。理路整然とした書き方を読んでいてそう思った。その分『少年A-この子を生んで』を書いた加害者両親の物書きの下手さがまた痛い。
 今年は神戸の事件から10年でドキュメンタリーなんかで蒸し返され、光市の事件も最近裁判の差し戻しがあったとニュースでやっていて、なんか昔の事件という感じがあまりしないな。もちろん被害者達にとっては時間の感覚なんて全くないんだろうけど。
 先日は神戸の少年Aを越えると思う事件が会津若松で起こったし、リンチして小指を切断後カレーに入れる事件があったり、最近ちょっと激しすぎる。部外者だけど、少年法はよ変われと思う。
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