元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『愚行録』  貫井 徳郎
2017-12-21 Thu 11:44
愚行録
愚行録
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貫井 徳郎
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 高収入でイケメンの夫、お嬢様育ちの美しい妻、可愛い兄妹と、誰もが羨む幸せな家庭である田向一家が惨殺された。犯人は捕まる事なく一年が過ぎた頃、その夫婦を知る人々に取材をする人物が現れる。
 そのインタビューに交互に挿入される形で、謎の女性が両親から受けた虐待の思い出を兄宛てに独白のように語りかける。


 ネグレクトにより子供を死なせた田中光子の新聞記事から始まり、唐突に田向夫妻の近所に住む女性への取材が始まって面食らった。世間話を交えた話が終わったと思ったら、また唐突に「お兄ちゃん」と語りかける女性による両親からの虐待の話、次は田向妻の友人の話、虐待話、田向夫の同期の話・・・と続いていき、事件ではなく田向夫妻の人物像を掘り下げられる。と同時に、虐待の話は母親の暴力から父親からの性的虐待の話へと発展していく。
 物語の真意が全然わからないままでも読み進められたのは、美男美女で夫婦共に高学歴でお金持ちで人当りもいい田向夫妻の黒い部分が垣間見えるからだと思う。人の悪口は蜜の味、みたいな。特に慶応大学の「内部」「外部」の話は田舎者の私には別世界過ぎるけど、そこから見えてくる田向妻(旧姓、夏原)の腹黒さはぞくぞくした。
 「田中さん」の話が出た時に冒頭のネグレクト事件の話に繋がると思いきやそうでもなく通り過ぎ、次の話にどんどん進んで行ったかと思ったら最後に急に戻って来て驚いた。後半の加速が激しすぎて、理解できるけど気持ちがついていかない。
 『愚行録』のどこが「愚行」だったんだろうか。田崎夫妻が内に秘めた腹黒さは、人間としてありがちな事であって「愚か」とは言い難い。母親から暴力を受け、実の父親からも母親の恋人からも性的虐待を受け、大学時代にお金持ちと結婚することを夢見て次々に男と付き合って都合のいい尻軽女呼ばわりされている事に気付かないままで、のちに実の兄との子を設けた挙句に保護責任者遺棄致死させた女性の行いは、「愚か」というより憐れみしか覚えない。大学時代に慶応学生に弄ばれ続けた妹の存在を覚えていたという理由だけで女性を殺した兄も、「愚か」というより歪んで育った恐怖感しかない。でも、このタイトルは妙に心に突き刺さる。もしかして田向夫妻の腹黒い部分に共感してしまったり、どんなにヒエラルキーのトップに立ってても不幸な死によって崩壊した周囲からの上から目線だったりする人間そのものの事だったりとか。
 事件性を追う事もなく、人間性もそう深くなく、心に響く事もなく、でも完璧人間の黒い部分を覗き込みたくなって読み進めて行った私が「愚か」だったりとかするのかな。ま、私が愚かなのは、本の感想を探らなくても自他共に認めるところではあるんだけれども。
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『百瀬、こっちを向いて。』  中田 永一
2009-02-19 Thu 23:05
百瀬、こっちを向いて。百瀬、こっちを向いて。
中田 永一

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「百瀬、こっちを向いて。」
 人間的なレベルが2程度であることを自覚し、目立たないように生きている「僕」こと相原ノボルは、幼馴染みの宮崎先輩から彼女の彼氏であるふりをして欲しいと頼まれた。宮崎先輩は資産家のお嬢様である神林先輩と付き合いつつも、百瀬という少女とも付き合っていた。神林先輩が気付き始めてるため、その疑惑を反らしたいのだと言う。
 「僕」は百瀬と付き合っているふりをするうちに、彼女のことが好きになってしまう。
 理由があって一緒にいるうちに恋が芽生える、というのはよくある話だ。フィクション・ノンフィクションに関わらず、どこにでも落ちている。けど、メリハリが効いてて面白かった。
 最初は宮崎先輩を、何て都合のいい加減なこと言う男なんだろうと思う。でも読み進めると、神林先輩との交際は父親の会社を立て直したいためかと思えてくる。それでもやっぱり百瀬に惹かれたのかなーとか、はっきりとは書いてないけど感じた。こういう、説明は簡潔だけど感じ取れる文章を書ける人って好きだ。
 最後にピリッと引き締まるラストが良かった。

「なみうちぎわ」
 家庭教師をしていた生徒・小太郎を助けようとして溺れたことから昏睡状態に陥った「わたし」こと姫子。5年間の昏睡状態から目が覚めると、21歳になっていた。小太郎は高校生になっており、毎日「私」の様子を見に来てくれていたらしい。徐々に体力を取り戻していく「わたし」のもとに、小太郎は毎日会いに来ていた。
 5年前に助けた子が美形に育って、しかもどうも「わたし」のことを想っているようだという設定に、いやいやそんな都合よく・・・って思う。でも何か、小太郎が抱いている気持ちが明確な“恋心”って感じじゃないのがいい。小太郎をかわいいと思ってしまう私は、もう歳なんだろうか。さらに読み進めると“罪悪感”が絡んでくることがわかるけど、決してそれだけじゃないような。この淡さは、何かいい。

「キャベツ畑に彼の声」
 女子に人気の本田先生に「わたし」こと小林久里子も恋心を抱いていたが、遠くから眺めることしかできずにいる。ある日、人気作家・北川誠二の取材のテープおこしを引き受けた「わたし」は、彼の声が本田先生と同じであることに気付いた。
 提出ノートに、北川誠二=本田先生という疑問を書いて提出した「わたし」は、次の日本田先生から職員室に呼び出される。「わたし」と本田先生は度々話すようになり、彼の妹と住む家で鍋を囲むまでになった。
 前の2編は、あれ?両思い?みたいな感じで終わったけど、この話は片思いのままっぽいな。先生の秘密を共有したこと、さらにその裏にあった事実を当てたことで先生との距離は縮まりはしたっぽいけど。いや、先生の妹の結婚式に出席したって書いてあったから、もうちょい深い仲になったのか?
 片思いの気持ちをキャベツに例えてるのが、上手いようなわざとらしいような・・・。

「小梅が通る」
 「私」こと春日井柚木は美しい自分の顔が嫌いで、普段は「ブスメイク」をして変装していた。ある日素顔の時にクラスメイトの山本寛太に会ってしまい、とっさに妹の小梅だと嘘をつく。翌日学校で、どうやら「私」の素顔に一目惚れしたらしい山本寛太からもう一度小梅に会いたいと言われ、数学のテストで70点以上取れたら会わせてやると約束した。 何かと山本寛太に話しかけられるようになった「私」は、次第に彼のことが気になり始める。しか、その美しい顔にコンプレックスを持つ「私」は、素直になることができなかった。
 なんつーか、かわいい話だな。必死に二役演じる柚木が。そして、オチが。山本寛太のように、最終的にでもいいから女は顔じゃないって言ってくれる男はどれだけいるだろうか。いないだろうなぁ。高校生男子なんて、鏡も見ないで「俺はメンクイ」とか言う奴ばっかだもん。
 柚木と山本寛太の掛け合いが面白かった。

 アンソロジー小説『I love you』『LOVE or LIKE』で読んだ話が2話。その時にも書いたけど、この覆面作家は私が敬愛する小説家・乙一だと言われている。実際のところはわからないけど、文章はよく似てるなっていうのが私の印象。私は乙一の文章が大好きなんで、同一人物か否かは置いといて、よく似た文章の中田永一さんの文章も好きだと思ってる。
 この本はどれも、「ねーよ!」って感じの話ばかり。でも、柔らかい文章なのにさらっとユーモアが効いてたり、ラストにちょっとひねりがあったりして、リアリティの追求から目を背けさせられる。上手いよなぁ。こういうとこも乙一っぽいんだが。
 私的には、中田永一さんは乙一じゃない方がいいな。こんな文章を書く作家が2人に増えるとは、喜ばしいことじゃないか。 
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『西の魔女が死んだ』  梨木 香歩
2008-06-09 Mon 15:27
西の魔女が死んだ西の魔女が死んだ
梨木 香歩

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 母親の迎えで学校を早退したまいは、「魔女が―倒れた。もうだめみたい」と聞かされた。日本で暮らす英国人の祖母のことを、母親とまいは「西の魔女」と呼んでいた。祖母の危篤を聞かされ、まいは2年前に祖母の家で2人で暮らした日々のことを思い出す。
 中学校に入ってすぐに不登校になったまいは、両親と離れてしばらく祖母の家で暮らすことになった。そこでまいは、自分が魔女の血を引いていることを告げられた。自分も魔女になりたいと思ったまいは、祖母から基礎トレーニングとして早寝早起き、食事をしっかり取り、よく運動し、規則正しい生活をすることを教えられた。
 単身赴任していた父親の元に母親とまいも引っ越すことに決めて祖母の家を離れる直前、まいが嫌いな向いの家のゲンジさんを祖母が庇ったことから仲違いしてしまう。一応の仲直りのような物はあったものの、祖母の家を発つ際に以前のように「おばあちゃん大好き」と言えなかったことがまいの中でしこりになる。しかし祖母は、死んで魂が身体から離れたらまいに見せるという約束を守ってくれた。


 タイトルから普通にファンタジーだと思ってたら、全然違っていた。それどころか非常に穏やかな話。映画化がちょっと話題になってるんで読んでみたんだけど、不登校の少女が自然と共に暮らす祖母の元で生きる力を取り戻すという文学界ではどこにでも落ちてる話だった気が・・・。ただ、祖母の英国式ライフスタイルがお洒落であり、舞台は日本なのに田舎生活というよりカントリーライフといった素敵さを匂わせている。昨今ちょっと流行ったターシャ・テューダ?と思わなくもないけど。うーん、どうも“きれいな話”で終わってしまって、私はこの話に取り立てて感動を見出せなかった。『ターシャの庭』をパラ見して全く何も感じなかった私には感動しろというのが無茶な話だ。自分は本当に波乱が起こらないと面白いと感じることすらできないんだなぁと再確認。
 厚さといい、深くも淡白なストーリーといい、子供向けというか祖母の家で暮らすまいと同年代向けかと思う。しかも女の子向け。私はちょっと物足りないと思った。例えばまいの母親がまいを「扱いにくい子」と言ったけど、ストーリーを通して読んでもまいの性格は全然そんなことなかった。母親なら安易にそんなこと言うなよ~、そして作者はちゃんとキャラ設定してよ~と思う。ゲンジさんも一方的に悪者にされて、最後はショボい感じで銀龍草を差し出すだけっつーのも何か良かったような可哀そうなような。ていうか銀龍草って地面に生えてる所が美しいんであって、一輪ざしに生けるっていうのはどうもなぁ。祖父が銀龍草好きだったからっていう理由はあるだろうけど、この祖母やゲンジさんなら上手に鉢植えにできただろうに。
 ただ、祖母の言葉は当たり前すぎて手を抜いている日常の原点を気付かされる。規則正しい生活は体調を整えると共に精神を安定させる。たまに自分を惑わせる声が聞こえたら、即座に無視。直観は大切だけど、直観に取りつかれると妄想となって激しい思い込みや妄想になるということ等々。私はもうすぐ30歳になりそうな年齢なのに、出来てない自分が恥ずかしい。
 最後に。魔女はいい祖母だったけど、こんな祖母が欲しいかどうか。私の母方の祖母は母が幼少の頃に亡くなってるため、私には父方の祖母しかいない。しかもその祖母は私が物心ついた時には既に高齢で、彼女から学んだことは少ない。でも私にとっての祖母は実の祖母以外考えられないから、こんな立派な祖母はいらないなぁ。家族愛の本を読んで「こんなお母さんが欲しかったなぁ」ってとか思うことはあるけど、祖父母に関しては譲れない気持ちになるのは何でだろうな。
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『いけちゃんとぼく』  西原 理恵子
2008-03-03 Mon 09:53
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西原 理恵子

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 本はスペース取るから基本的には買わない派(注:乙一は別。絶対買う)の私が、久々に本を買いました。結構前になんだけどフジテレビの「ザ・ベストハウス123」で紹介されてからちょっと気になってた本。大まかなストーリーとオチは知ってたけど、さらっと紹介されただけでもズンと響いてくるものがある気がして買ってみた。

 「いけちゃん」はいつも「ぼく」の側にいてくれる不思議な生き物。「いけちゃん」が何なのか、説明もないし「ぼく」が気にしてる様子もない。ただ、お母さんみたいに包み込んでくれたり、兄ちゃんみたいに面白いこと教えてくれたり、友達みたいに一緒に楽しんだり、たまに甘えん坊だったりとかする。
 何者なのか?性別は?存在意義は?という疑問を無視してストーリーは進んでいくけど、「いけちゃん」が何者なのかは終盤に突然わかる。二度三度と読むと「いけちゃん」の言葉や態度に溢れる温かさを理解できた。荘大すぎるよ、西原さん。
 主人公の「ぼく」は西原さんなんだろうか?「ひゃくうみでもだいじょうぶ」の時、そう思った。両親の離婚の話かと思ったけど、「お父さんにさいごのおわかれをして たくさんの人の前であいさつをした」という分からして父親との死別の話なんだろうと思った。全部読み終わったらまた、西原さんの人生を思い出した。
 一度離婚した人と、最終的には籍を入れないで事実婚という形を取って同居していた彼女。その相手が亡くなったのは、いつのことだったっけ?ネットで調べてみると、去年の3月だ。この本の出版年月を考えると、肝臓癌に侵された彼にこの本を見せることはできたんだろうか?
 作品の背景に作者の人生の存在を考えるのはどうかと思いつつ、考えずにはいられなかった。
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『千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン』  野村 進
2008-02-29 Fri 22:15
千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン (角川oneテーマ21)千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン (角川oneテーマ21)
野村 進

角川書店 2006-11
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 世界で一番古い企業は日本にあり、578年に創業しているそうだ。日本書紀に出てくる神社をそんな話から始まり、日本の老舗の製造業企業を取材しつつ独自の見解を交えた本。そもそも私達は、普通に生活してるだけで「老舗」を掲げる店ってゴロゴロ見かける。でもそれは日本に際立って多いだけらしく、他のアジア諸国では「老舗」と言えるような企業はほとんどないとか。日本では職人を尊敬する文化があるからだと、この著者は指摘する。
 なるほど~。職人を尊敬する文化って、確かにある。何かがズバ抜けて上手いことを「職人技」とか「職人芸」とか言うし、なんでも鑑定団での中島さんの「いい仕事してますね~」って言うのは有名なかつ味わいあるセリフだもんなぁ。
 3桁もの年数の歴史を誇る企業が作ってるのは、携帯電話の部品やらプリンターの部品やら車のバックミラーやらだ。しかもシェアは世界で大きな割合を占めていたりとか。時代の波にさらわれそうになりながらも新しい着眼点や堅実な仕事ぶりで唯一無二を誇っている企業が日本には何と多いことか。
 へぇボタンを押したくなる話の連発だった。何かこう、じわじわと面白い。「売り手よし、買い手よし、世間よし」「良品は声なくして人を呼ぶ」「不義にして富まず」「町人の正義」などなど、やっぱ成功者の言うことは重みが違うわぁと思う。
 企業の中国進出について、良い点も悪い点も書いてあるんだけど両方納得。ただやはり、タダ盗みみたいなことされるのは腹が立つから私は中国進出はあんまりしてほしくないという、普通の意見なんだけど。だけど中国人の特性を知った上で上手く付き合っている社長には感心した。
 インタビューが雑だったり、切り込みが浅かったりするけど、知識が浅い私には適度に読みやすかった。もうちょっと掘り下げてほしい個所もありはしたけれども。19もの企業の事例を挙げつつ、この薄さなら仕方ないかな。これ以上厚くて、この内容だったら平易だったとしても読む気が薄れたかもしれない。
 それにしても、タイトルの割には紹介されてる企業のほとんどが数百年なのはなぜだろう?
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