読んだ本をひたすら記録する備忘録ブログ。思ったことは全部書き、平気でネタバレしてます。
『私の男』  桜庭 一樹
2008-08-25 Mon 00:54
私の男私の男
桜庭 一樹

文藝春秋 2007-10-30
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 腐野花(くさりのはな)は震災で家族を亡くして、9歳の時から15歳年上の腐野淳悟に育てられている。24歳で尾崎美郎と結婚を迎えるが、花にとって「私の男」である養父・淳悟とは見えない鎖で繋がったまま逃れられないでいる。
 結婚前日に花、美郎、淳悟で食事をし、結婚式を済ませてハネムーンに出かけ、戻ると淳悟はいなくなっていた。古い知り合いである小町さんが来て、淳悟は死んだと言う。それが嘘であることをすぐに見破った花。物語はそこから、視点を変えつつ花を中心に過去へと遡っていく。
 2章は21歳の花と出会い、淳悟とも知り合ってその不思議な親子関係を見せつけられる美郎。仕事も付き合いも要領よくこなし、複数の女性と付き合いつつも花が気になり始める。
 次の3章は、東京で16歳の花を貪りつつ見守る淳悟の視点。バイク便の仕事をしながら花を養っている最中、故郷である「北」で知り合った田岡が訪ねてきた。田岡は半年前に「北」で起こった殺人事件の犯人を花と確信しており、全てを悟られていると知った淳悟は田岡を殺害した。
 4章の半年前で紋別市にいた頃の花の視点。身も心が淳悟を求めて止まず、海上保安部に所属する彼が巡視船で出かけて留守にする度に海の方を見ながら過ごす。しかし2人の関係が地元の人々から「親父さん」と慕われる大塩に知られてしまい、花は淳悟と離れて暮らすよう説得する大塩を流氷に乗せて蹴りつけ殴り、流れゆく流氷に置き去りにした。
 5章は淳悟の恋人・大塩小町が12歳の花を好きになれずに警戒している。本家の祖父や紋別警察署の田岡は震災孤児の花をかわいがるが、小町から見ると花は得体が知れなくて何となく怖かった。淳悟と花の奇妙な親しさの親子関係に、小町は花が淳悟から何かを奪っていったのではなくて淳悟が花から何か大切なものを奪い続けていることに気付く。
 そして最後の9章は9歳の花の視点。地震による津波で両親と兄と妹を失って避難所にいた花のもとに、淳悟が来て紋別に連れ帰った。淳悟は花が暮らしていける準備をサクサクと整え、若い独身男性に子育てができるはずがないと反対する連中を説得して、花を正式に養女にする。淳悟の母親の墓参りに行った日、夜中に淳悟は「ものすごく、さびしい」と言う。花が抱きしめていると、淳悟は花の服を脱がせて全身を舐めまわした。

 若い男が9歳の主人公を引き取って肉体関係を結びつつ、主人公は大人になる。主人公は彼が実の父親だと知っていた・・・という前知識を、同じ職場の人から教わっていた。彼女はこの本が気持ち悪くてたまらなかったらしい。図書館に予約しててまだ読んでない私にいかに気持ち悪いか話してくれたけど、深く語ると泣くんじゃないかって思うくらいに時々言葉が震えていた。47歳で、娘が冒頭の花くらいの年齢だから読むのが苦しかったのかもしれない。
 タイトルで既に女の業のようなものを感じていた私は、その話を聞いて万全の警戒心で手に取った。直木賞受賞してなかったら確実に避けるところだけど、職業上そうもいかないんで心をフル装備にして読み始める。
 半分くらいまでは確かに気持ち悪かった。でも、時系列が段々と遡るにつれて2人の心の闇を理解させられていく。父親が死ぬと同時に、母親が父親のように厳しくなってしまった淳悟。自分だけ父親が違うことは知らないで育ったものの、家族の中で浮いているために出来るだけぼんやりと過ごしてきた花。耐えられない寂しさの満たし方を知らない淳悟から、愛情という物を初めて向けられた花が受け止める・・・と書くと月並みだろうか。
 私事だけど、うちの両親は家を支えるために一生懸命働くあまり、子供への愛情の示し方が手間とお金だけという人達だ。精神的に支えてもらったことがない。小さい頃くらいはあるのかもしれないけど、記憶を小学生くらいまで遡らせても思い当たらない。でもい両親から愛情をいっぱい受けて育った配偶者から向けられる物には、男女間の愛情と共に別の物を感じていた。考え抜いて、これが家族愛ってやつかなぁと思い始めてる今日この頃。例えば今、彼の愛情は変わってないのに問題があるから一緒にいてはいけないと言われたとして、私は大丈夫だろうか。
 読後に何となく寂しい気分になって身を寄せると、「その本に何か寂しい事が書いてあったの?」と言ってきた私の配偶者。いきなりズバリと当てられて仰天すると同時に、理解してもらえてる安心感から離れることができるか自問自答。難しさを改めて実感した。
 書評サイトで叩かれてるのを読んでて想ったんだけど、成長過程で両親の愛情に疑問を感じなかった人には理解し難い作品かもしれない。理解できる人が不幸な家庭ってわけじゃないだろうけど、理解できない人達は幸せな人達なんだろうなと思う。
 私だってどう見ても普通の家庭の部類で、こんな深いとこまで行きつくことはできないだろう。でも深い所に来てしまっているこのフィクションを全力で否定することはできない。6章の出会って間もない頃、若い男らしい乾いた愛情を娘に注ぐ淳悟と、その愛情を受けて離れられなくなった花。まだ健全な頃のやりとりが可愛らしくて、次第に不健全になっていく過程を読むために章ごとに逆に読んでいくと切なくなる。
 面白い小説というわけじゃないけど、私の内面をグサグサほじくり返して潜り込んでくるような作品だった。独特のひらがな使い、読点使いにも魅せられて、どうにもこの作品が頭から抜けない。淳悟、どこ行ったんだろうなぁ。花は幸せになってほしいなぁ。淳悟と花の母親はどうやって関係を持ったのかなぁ。
 それにしても、これが直木賞?わかりやすめの芥川賞じゃなくて?これのどの辺が大衆文学なんだろうか。少なくともR指定は必要なんじゃなかろうか。多感な年齢の子にはとても読ませられない。
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『慟哭―小説・林郁夫裁判』  佐木 隆三
2008-01-12 Sat 19:03
慟哭―小説・林郁夫裁判慟哭―小説・林郁夫裁判
佐木 隆三

講談社 2004-02
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 地下鉄サリン事件の実行犯の1人・林郁夫に焦点を当て、彼の供述や裁判記録を元にノンフィクション小説。医者という立場にありながらなぜオウム真理教に入団し、最終的には無差別殺人に加担したのか?彼が関わる事件を整理し、わかりやすく小説仕立てにした本。
 これを読む限りじゃ林郁夫って本当に真面目で、医者の限界に押しつぶされそうになるほど責任感が強い人なんだと思う。人を救うために解脱したいと出家し、取り返しがつかない所まで来てようやく気付き、自ら極刑を覚悟するという壮絶な人生を、私はこの本を読んで初めて知った。これまでは、ただの狂人としか認識してなかったような気がする。
 今思い返しても、オウムが起こした事件の数々はどれも悪質だ。その中でも地下鉄サリン事件は、今流行りの無差別テロと全く変わらない。こんな教団が改名して残ってるんだから、日本も甘い国だと思う。
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『三つの墓標―小説・坂本弁護士一家殺害事件』  佐木 隆三
2007-12-14 Fri 00:02
三つの墓標―小説・坂本弁護士一家殺害事件 (週刊ポストBOOKS)三つの墓標―小説・坂本弁護士一家殺害事件 (週刊ポストBOOKS)
佐木 隆三

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 タイトルには「小説」としてあるけど、あくまで小説の形式を取ってあるだけ。内容はこの事件の裁判の陳述記録を元に、6人の実行犯それぞれの視線で事件を描いてる。そのためにルポではなく「小説」としてるんだと思う。
 改めて思い返しても、壮絶な事件だった。坂本弁護士がオウムの活動を邪魔する。自分達の邪魔をすることを「悪業」とし、「これ以上悪業を積まないように殺すことは善業であり、輪廻転生の観点から見て魂の救済になる」という勝手な屁理屈で坂本堤弁護士、妻の郁子さん、1歳の達彦君を殺したという。実行犯の6人が思うことはそれぞれでも、やっぱり全員狂ってる。
 読んだだけで鬱々とした気分になる本だけど、これがまた現実に起こった事件なんだからなぁ。オウムが名前を変えて未だに存在してることも許しがたい事実だけど、TBSも何でまだご健在なんだろうか。
 この著者、よくぞ1冊の本にまとめてくれたと思う。相当な労力だったに違いない。
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『アサッテの人』  諏訪 哲史
2007-12-01 Sat 00:19
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諏訪 哲史

講談社 2007-07-21
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 失踪した叔父について小説を書いている甥が、小説の創作の構成を考えつつ叔父の奇妙な口癖達「ポンパ」や「チリパッパ」「ホエミャウ」を考察する、という形式で書かれている。その小説は、叔父が残した日記、今は亡き叔父の妻から昔聞いた話、自分と叔父との思い出から構成されることになるようだ。
 子供の頃から吃音に悩まされていた叔父だったが、ある日突然その吃音が治った。しかし吃音がない世界は彼を不安にさせていく。そんな世界とのバランスを取るために吃音に代わるため、叔父は「アサッテ」を求めた。
 ここで言う「アサッテ」というのがまた難しい。常識や定型からちょっと外れるというか、普通であることを無理やり壊すというか、そんな感じだろうか。

 群像新人賞を受賞し、なおかつ第137回芥川賞も受賞したこの作品。特殊な人にしかなさそうで、誰にでもありそうな「アサッテ」の掘り下げていく視点がなかなかクレイジーでいいと思う。「エレベーター男」の印象的なエレベーター内限定「アサッテ」とか、程度はあれ誰しも理解できるものではないだろうか。私はいい純文学だと思った。
 ただ、純文学って楽しくないよなぁ。こう言うと元も子もないけど、やっぱ私は大衆文学の方が好きだ。それと、かわいらしいイメージの奥さんはちょっとイッちゃってる感じの叔父さんのどこが好きだったんだろうか。それは本当に謎。
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『犯人に告ぐ』  雫井 脩介
2007-11-14 Wed 00:14
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雫井 脩介

双葉社 2004-07
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 神奈川県警の警視・巻島が手掛けた誘拐事件は、犯人を逃がした挙句に被害者の子供が殺害されるという最悪の終結を迎えた。さらにマスコミの前でキレて暴言を吐いてしまい、閑職に回される。
 その6年後に起こった幼児連続殺人事件が難航し、マスコミを利用して犯人を誘き出そうという「劇場型捜査」が考えられた。呼び出された巻島は、その中心に据えられる。テレビを通して犯人に呼びかける巻島は犯人から手紙を受け取ることに成功しつつも、陰では上司の植草が外部に情報を漏らしていた。
 捜査が難航すると、視聴者、他局のニュース番組、警察内部、被害者の家族など様々な方面からの軋轢を受ける。しかしここぞという時には思い切った行動が取れる巻島と、ごく僅かな味方達。この強さが、すごく魅力的。特に巻島の支えとなる津田長が印象的だ。
 リアルな警察組織の描写ができるのって横山秀夫さんが頂点だと思ってた。でもこの雫井脩介さんもなかなか凄い。もちろん一般人の私には真実かどうかはわからないんだけど、リアルだなぁと思わされる。
 でも最後に犯人を追いつめるシーンはいまいちだったかな。テレビに向かって「犯人に告ぐ」と言うんじゃなくて、犯人の通称で呼びかけたのにはがっかり。そこはタイトル通りで言ってほしかった。しかも「ベージュかカーキか」とか、大々的な捜査のわりにパンチの弱い手掛かりしかないとか。犯人確定のシーンもさらっとしすぎ。最後まで読み手は犯人像を掴ませてもらえず、巻島中心の話で終始したのが残念だった。
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