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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『七つの試練』  石田 衣良
2019-11-02 Sat 00:13
七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV
石田 衣良
文藝春秋
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「泥だらけの星」 
 タカシの友人で俳優の鳴海一輝は、大きな仕事終わりに役者仲間とモデルの卵・エレンと3人で3Pを楽しんだ。その件でエレンの事務所の社長・市岡から脅迫されていた。タカシから呼び出されたマコトは、いい解決法はないかと相談される。

 イッキの「抱いたり抱かれたり」発言と週刊誌に売られちゃうかもって流で、このネタってあの・・・と絶句。元ネタは成宮君の件だよね。いやちょっとこれは・・・。でも、ラストの展開は嬉しかった。成宮君に向けての励ましだよね。市岡の悪行を別の週刊誌に載せるという反逆で、イッキが自身で堂々とバイセクシャルであることを前面に出すことを提案したこと、エレンの「そういうの隠す時代じゃないっしょ」という発言、CM契約は失ったけど市岡を刑事告訴するとドラマや映画はそのまま続いたこと。彼に届いてるといいなぁ。
 とはいえ、この話がアリなのかどうかはちょっと判断に迷う気もする。成宮君がこれ以上傷ついてないといいなと思う。


「鏡のむこうのストラングラー」
 マコトが最初に手掛けた事件、連続女子高生首絞め事件の犯人ストラングラーがまた池袋に出た。出会いカフェ『チェリーズ』のオーナーから相談されたタカシから、マコトが呼び出される。
 被害者の一人・HELAは沖縄の片隅で生まれ、14歳の時から売春をするしかない環境に育った。その生活を抜け出すために東京で大学に行き、弟を高校に行かせ、妹に売春をしなくてもいいようにするために、奨学金の他に『チェリーズ』で稼いでいると言う。彼女の協力を得て似顔絵を制作し、Gボーイズの働きで犯人はあっけなく捕まった。

 最近マコト、タカシ、おふくろ以外の人は一期一会状態だと思っていた矢先、第一話のストラングラーの再登場!?と思いきや、似た趣味を持つ変態がまたいたって話だったことにちょっとがっかり。でも第一話で似顔絵を描いたシュンが今や人気キャラクターデザイナーとして再登場したのは、ちょっと懐かしかった。とはいえ一巻読んだのは随分昔だから、あーいたいたそんな人、あったあったそんな展開っていう微かな記憶しかないんだけど。
 今回は変態に死ぬ思いをさせて二度と同じような行動を起こさせない話じゃない。日本の貧富の差って、思ったよりあるんだとほんの数ページで知らさせられた話だった。



「幽霊ペントハウス」
 マコトの中学の同級生スグルが購入した億ションの最上階で、真夜中にコツコツという音が聞こえる。スピリチュアルに凝っている妻が、土地神の機嫌を損ねたんじゃないかと引っ越したがって困っていると相談して来た。スグルのマンションに行ってみると、確かに夜の11時にコツコツという音がする。マンションからの帰り、マコトはマンションの屋上を見つめるベリーショートの女性を見掛けた。
 マコトが何気なく土地神の話を母親に聞くと、母親は一人の拝み屋を紹介した。彼女の不思議なアドバイスに従って、言われた通りの日時に再びマンションを訪れたマコトは、再びベリーショートの女性に会った。

 今回はストリートのアングラ事件というより、コージーミステリーって感じだった。美人スピリチュアル妻が言う事が意外と当たってたり、不思議なおばあさんが出てきて予言通りになったりと、いつもと経路が違う。土地神の龍神に代々仕えてきた三木元家の龍神つきの娘が監禁されてたっていうのは、コージーではないか。
 なんか、面白いんだけどIWGPにこういうのは求めてないんだけど・・・って気がした。それと、スグルが中学の同級生ならサル君も出してくれ。


「七つの試練」
 交流サイトのゲームで七つの試練というものが流行っているらしい。管理人が一つずつ試練を出し、受けた人物はその試練を行う写真やムービーをアップするとたくさんの「いいね」が付く。最初は他愛もない試練だが、段々と暴力や窃盗の試練が課され、最期には飛び降りの課題が出ると言う。
 その試練を受けた不登校の男子高生・タクミは、「いいね」欲しさに自宅の屋根から飛び降りた。Gボーイズのメンバーにも、途中の試練の窃盗で捕まった者がいるそうだ。タカシからの依頼でタクミの話を聞きに行ったマコトは、タクミの妹で中学生のユウミに声を掛けられた。彼女は兄の敵をとるため、七つの試練に挑戦しているという。ユウミの七つの試練を足掛かりに、マコトは管理人を江ノ島におびき出す作戦を立てた。

 「いいね」文化への皮肉のような事件だった。SNSの「いいね」欲しさにバイト先なんかで非常識なことやって炎上して社会問題になってたけど、「いいね」欲しさに死ねって言われたら死ぬのかっていうのを具現化してるような事件。で、住む世界も視野も狭い未熟な人間が犠牲になった。
 ネット社会という水面下に潜った犯人を釣り上げる様子が面白かったし、作戦の要はマコトが作って最後の一番おいしいところはタカシが魅せるといういつものカッコいいスタイル。今回はスレッドに影響された連中も展望台から一斉に飛び降りる(ただし命綱は自由)という展開。張り込んでいたGボーイズ達が愚かな彼らに一斉に飛び掛かるクライマックスが、かっこよかった。
 シュンに続き、今回は懐かしいゼロワンが登場したけど、結局役に立ったのか?オニオンルーターについて説明しただけじゃない?過去に登場したこういう凄腕の人達、もっと登場して欲しいなぁ。
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『西一番街ブラックバイト』  石田 衣良
2019-10-19 Sat 17:49
西一番街ブラックバイト 池袋ウエストゲートパークXII
石田 衣良
文藝春秋 2016.08
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「西池第二スクールギャラリー」
 マコトがかつて通っていた小学校がリノベーションされ、アートサポートセンターになった。そこでギャラリーを持つマコトの幼馴染・サエコによる依頼で、小門屋という男の作品が2度に渡って壊される事件の犯人を捜して欲しいと言う。
 30歳で仕事を辞めてアーティスト活動をし、迷いながらも9年も作品を作り続ける男を描く。

 脱サラして芸術家になるとか歌手になるとか小説家になるとか起業するとか、よく聞くけど成功例が少ない話。大抵の人は早めに折り合いをつけてありきたりな人生を送るはずなんだけど、苦しみながら続ける人がいて、その中のごく僅かに晩年世に認められる人もいる。むしろ、人に認められるための活動じゃなくて衝動なのかもしれない。そんな中年男と、苦しい中小企業の傷つけ合いが悲しい。
 マコトが「おれも三十歳の誕生日に、そんなふうに考え込む日が来るんだろうか。」という下りがあって、IWGPシリーズの面々が歳取らないことを考えないようにしているのに先方から突き付けられた感じ。これだけ世の情勢をネタにしてるのに、マコトもタカシもまだ20代半ば設定?マコトは八百屋のトラブルシューターで年取ってもいける気はするけど、タカシは厳しいかな。本物の反社会勢力の人になるか、キングを代替わりしてそのカリスマを活かした別のことやるか。
 うーん、それはそれで読みたい。


「ユーチューバー@芸術劇場」
 人気ユーチューバーの140★流星(ワンフォーティーりゅうせい)が、ライバルユーチューバーから脅迫されているそうだ。自身のチャンネル3周年記念動画を邪魔されないようGボーイズに依頼があったが、受けるかどうかを判断して欲しいとタカシからマコトに依頼される。

 全く新しいジャンルのビジネスと、マコトとタカシのクールなテンションが奇妙な空気を醸しててちょっと面白い。そこにさらに、暴力的発言と共に破壊活動の動画をアップする戸田橋デストロイヤーZ。変な取り合わせので世界観を破壊してくるのってシリーズ通して時々あるけど、結構好きだ。
 でもなんか・・・前にも書いたけど携帯電話が爆発的に普及してきた1990年代後半に始まって、未だに若者としてユーチューバーと絡む姿は、サザエさんに薄型テレビとかスマホが出てくる奇妙な違和感がある。どっかのタイミングでIWGPは終わって、別キャラで似たようなシリーズした方が私は好きだなぁと思いつつ、大人の事情が優先されたのは仕方ないよね。
 あとちょっと気になったんだけど、一話目でサエコのギャラリー警備では警備料は破格と書いてあったのに、今回はボディーガード料金は街の興信所より安くないと書いてある。ここんとこ、どうなの?警備とボディーガードの違いってだけなの?Gボーイズ、時々よくわからない。
 

「立教通り整形シンジケート」
 物凄く美人で、とても美しい声をしているけど決してマスクを外さない女・スズカからの依頼。前の職場にいた男から付きまとわれて困っていると言う。彼女はほんの少し大きめの顎を気にして整形手術を受ける予定だった。
 一方タカシも、池袋の悪質美容外科について調べていた。無理な整形を繰り返して高額な施術代を払った挙句、顔面崩壊する女性達が集団訴訟をすると言う。スズカが控えた整形手術もその病院で行われる予定で、ストーカー男・園田は彼女を止めようとしていた。

 整形手術って、もうどれだけ当たり前になってきてるんだろう。少なくとも芸能界は整形美人だらけで、公言する人も出てきたくらいだ。
 スズカは時折、心を閉ざす様子を見せる。きっと元が美人であるが故に粗探し人間に傷つけられてきたんだろうな。ただ、彼女は顎さえ治せばかなりの美人になると予想される。このシリーズによくある弱者が少し幸せになる話ではなく、上手くやればとても勝ち組になるかもしれない超ハッピーなシンデレラストーリーな気がする。


「西一番街ブラックバイト」
 勢いがあり、次々に事業展開するOKグループ。マコトは家の近くにあるOKグループ従業員のマサルと顔見知りになり、社長の書籍購入ノルマや書籍からのテストの話などの話を聞いてはいた。GボーイズのメンバーもOKグループで働いている者が数多くいて、マコトはタカシに誘われて一緒に視察に行く。
 そのOKカレー店の屋上から飛び降りようとする青年がいた。彼はマサルの後輩・ミツキで、マサルの誘いでOKグループに入ったが心身共に病んで飛び降りようとしている様子だった。消防隊のマットが間に合って一命を取り留め、マサルは会社とやり合う決意をする。
 同じ時期、池袋で引ったくり事件が起こる。犯人2人組はGボーイズのメンバーでOKグループにバイトとして入ったものの、辞めようとする際に莫大な違約金を請求されていた。また、OKグループが雇う武闘派5人組から狙われていたため、彼らに見付かる前にGボーイズが見つけたいとタカシが話した。

 フィクションながら、いつもマコトの行動力と度胸にはドキドキする。その行動力と、自殺未遂後の藤本に掛ける言葉の優しさと説得力が熱い。もちろんキング・タカシの強さと気高さとカリスマもかっこいいし、二人の阿吽の仲も素敵なんだけど、マコトの頭の良さが私はとても好きだと思う。
 過去のシリーズで扱った、外国人労働者問題とかホームレス支援の問題とか低賃金者搾取の問題とか社会問題化してる大きな問題を取り上げて、マコトが世の中を変えれるわけじゃないけど目の前の一つの悪事をぶった切る姿は好きだと思う。


 過去のIWGPシリーズのレビュー読んだら、サザエさん化現象について書いてた。前に書いたこと忘れすぎでしょ、私。
 このシリーズ、短編だしレギュラー人物がマコト、タカシ、おふくろぐらいしかいないし(サルを最近見てない・・・というか読んでない)、私自身本は読み流しがちだから過去の話思い返してみたら結構忘れていることに気付いた。amazonの内容紹介読んでもピンとこない話も多数。また1巻から読んでみようかな。以前はライトに読める本はこのブログに記録を残してなかったから、書いてないのも多いし。15年前の若者の話を追ってみるか。
 今回は9巻で義妹になった子の名前がチラッと出てきて安心した。10巻で全く出てこなかったからちょっと失望してたとこだけど、良かった。
 最近ちょっとタカシのかっこよさと、そのタカシが唯一心を許すマコトっていう構造が鼻に付くことがある。ちょっと狙いすぎじゃないか。でもこの狙いすぎが癖にならなくもないんだけど。
 来年アニメ化だって。ドラマ化では長瀬君がかっこ良すぎて、実際のとこキングよりイケメンだったのはどうなんだと思ったけど、アニメはどうだろうか。アニメはジブリくらいしか見ないような私だけど、多分どんなもんかちょっと見ると思う。ただ、アニメ独特のノリって苦手なんだよね・・・。
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『母さんがどんなに僕を嫌いでも』  歌川 たいじ
2019-05-10 Fri 09:56
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 美しく、人格者で周囲の人から絶大な人気を受けていた母は、家では「僕」にひどい暴力を振るう人だった。父が経営する工場の従業員達、とりわけ「ばあちゃん」に助けられながら育った「僕」は、両親の離婚で姉と共に母に引き取られる。
 離婚が成立してからも母の暴力は続き、母の取り巻きや恋人達にも罵られ、17歳で家出した「僕」。年齢をごまかしながら食肉工場働いて周囲に認められながらも、過去は付いて回って「僕」を苦しめる。
 一念発起して働きながら大学の通信教育を受けることにした「僕」は、学生ミュージカルに入る。美形で人当りの良く人気者の青年・キミツに出会った。母を教訓にキミツの裏の顔に気付いた「僕」だったが、お互い罵り合い、殴り合いながらも仲良くなる。
 その後入社した会社で遮二無二に働き努力の成果が実ったけど、周囲が見えなくなりつつあった。ある日キミツに誘われて飲み歩いていると、同僚のかなちゃんと彼氏・大将を紹介に会って一緒に飲むことになった。「僕」はかなちゃんと大将に毎週誘われて遊び歩くうちに、暗い十代にはなかった青春を感じていた。
 

 たまたま読み始めた歌川さんのブログ。最初から読んでみると、なかなな人生で驚いた。ゲイであることをカミングアウトして生きてる以上それなりに壮絶だとは思ってたけど、虐待やいじめを経験して来たなんて普段のブログからは想像つかない。
 歌川さんは否定しそうだけど、強くて賢い人だなと思う。人に恵まれたと言うより、歌川さんの努力や知性に人が集まって来てる気がする。壮絶な経験をした人がこんなに強く逞しく生きてるのを目の当たりにすると、たかだか無関心や躾けレベルの暴力・暴言がトラウマになって動きを止めたっきり動けなくなった自分が情けなく思う。
 ブログの中でもキミツが一番好きなキャラだけど、この本を読んでもっと好きになった。「親や自分を恨んだりしているうたちゃんが、本当のうたちゃんなの?(中略)もっとその奥に、本当の本当のうたちゃんがいるような気がしてならない」と言う言葉。資産家の息子らしいから、きっと色んな人を見てきたんだろうな。
 歌川さんの体の傷を知ったかなちゃんの「うちの子になりなよ」と言う言葉も、もうね、顔面が滂沱ですよ。
 少しずつ過去と向き合えるようになってきて、とうとう母親と連絡を取り合えるようになった歌川さん。他人から見たら最後の母親のセリフでこれまでのことが帳消しになるはずもない。でも、歌川さんは母と子の時間を過ごす事ができたことを幸せだと言う。正直、そんな簡単に幸せ感じちゃうの?って思わなくもないけど、やっぱタイトル通り「母さんがどんなに・・・」なんだろう。
 マンガ版と手記版どっちを読むか迷ったけど、どっちも歌川さんが書いてるならどっちも読まないと理解は深まらないと思って両方読んだ。マンガはコミカルに描いてるし、手記版も穏やかな敬体で書いてあって、内容とちぐはぐだ。そこにキミツが言ってた「恨み節じゃない本当の歌ちゃん」があると、勝手に思ってる。両方読んで良かったと思う。
 去年だったかな?私が住んでる県に歌川さんが講演に来た。1500円くらいのかなりリーズナブル設定だったにも関わらず、ちょうどマジ金欠だった私。当選連絡が来たのに行かないことにしてしまった。貯金くらいあるんだから、行っておけば良かった。
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『蜜蜂と遠雷』  恩田 陸
2019-03-01 Fri 15:27
蜜蜂と遠雷
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恩田 陸
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 3年ごとに開かれる芳ヶ江国際ピアノコンクールでの、4人のピアニストを描く。
 まずは今は亡き音楽界の大物ユウジ・フォン=ホフマンに師事していたという15歳の少年・風間塵。養蜂家の息子としてヨーロッパ各地を旅する彼は、ほとんど弟子を取らなかったホフマンの推薦状を持ってエントリーした。衝撃的な演奏で審査員達に賛否を巻き起こしていく。
 13歳の時に母が急逝して以来、ピアノが弾けなくなった栄伝亜夜。ジュニアのコンクールを制覇し、CDデビューも果たし、コンサートも開催し、1年半先までスケジュールが埋まっていたが、母親の死後行われたコンサートで本番直前に逃げ出してしまっていた。その後高校卒業までピアノを弾くことはなかったが、母と音大で同期であり、名門私立音大の学長・浜崎の勧めで再びピアノを弾き始めた。浜崎に言われて芳ヶ江国際ピアノコンクールに出場したものの、本人は特に乗り気でもなくのんびりしていた。「あの」栄伝亜夜が出場すると皮肉を込めた注目もあったが、彼女は誰もが認めざるを得ない演奏をする。また、幼馴染のマー君とも再会し、彼と音楽の感性が非常に似ていることを実感した。
 出場者の中では最高年齢28歳で、音大を卒業後は大手楽器店で働く妻子持ちの高島明石。サラリーマンとして仕事をこなしながら、睡眠時間を削って練習し、自身を追い込み、コンクールに臨む。栄伝亜夜のファンだった。
 世界的なピアニスト、ナサニエル・シルヴァ―バーグに師事している19歳イケメンピアニストのマサル・カルロス・レヴィ・アナトール。幼い頃に日本に住んでおり、近所に住む少女のピアノ教室にくっついて通っていた。彼がフランスに戻る時に少女がくれたレッスンバッグを今でも大切にしている。その少女・栄伝亜夜と、このコンクールで再会を果たした。ルックスが良いだけでなく、スポーツマンでもあり、何より天才的ピアニストで圧倒的な技術と表現力を持っている。
 選考が進むにつれて、絞られていく才能ある若者達が優勝を目指して予選を勝ち進んでいく物語。

 タイトルから、ビバルディ「四季」の「夏」を連想し、目次チラ見で音楽小説と知って、やっぱりねと思っていた私。全然関係なかったことに衝撃の結末を迎えた。感想として真っ先にそれが浮かぶくらい、楽しめなかった。いわゆる左脳タイプの文系で、音楽経験ゼロ、生活の中で音楽を流すことは少なく無音が好きなため知識も教養もゼロ、さらに純然たる音痴の私に、この本を楽しめるわけがなかった。だって演奏家によって音楽が変わるってことさえピンとこないんだもん。
 それでも恩田陸先生の表現力は素晴らしく、歌詞のない音楽に言葉を尽くして文章で表現してある。どうにか理解できたような気になって読み進めたけど、コンクール始まって次々に演奏されていって知りもしない曲を文章で表現されてもチンプンカンプンな挙句眠くなる始末。
 人物の視点が目まぐるしく変化していくのも、音楽という抽象的な物をさらにあやふやにしている気がする。メインの人物達5人だけじゃなく、審査員、亜夜に付きそう浜崎の娘・奏、ドキュメンタリー番組制作のために明石を撮影する同級生の雅子、明石の妻・満智子、マサルの師匠・ナサニエル、調律師、コンサートマネージャー、他にも様々、同じシーンも複数の視点で細かく行き来して展開するために、あやふや感が加速してしまった。
 それでも人間模様の機微なんかは妙に伝わってきて、塵の音楽に対す愛情や渇望、ホフマンの推薦を受けたことへの嫉妬や、亜夜の音楽に対する真っすぐな心、明石の意気込みやためらい、何でも悠々とやってのけるマサルの抱く恋心、どこか通じ合う天才達、その他の人々諸々の感情がありありと息づいていている。
 表現力に感心することに終始しつつどう終わるのか楽しみにしていたんだけど、何かフワッとしたラスト。クライマックスがないまま、終わったように感じる。結果発表、ないし。ラストにワードで横書きしたような順位表が書かれているだけだし。もっとガッと盛り上がったんならともかく、各々の到達した音楽観だったからページ飛ばしたかと思った。
 教養のなさゆえか私には理解が及ばなかったけど、2017年本屋大賞受賞作品、2016年下半期直木賞受賞。うーん、凄すぎでしょ。
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『百年泥』  石井 遊佳
2018-11-12 Mon 14:38
百年泥 第158回芥川賞受賞
石井 遊佳
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 「私」が日本語教師として滞在しているインドのチェンナイ市で、アダイヤール川が氾濫して百年に一度の大洪水が起こった。三日目に水が引いて外に出ると、アダイヤール川に架かる橋に百年分の川底の泥とゴミが積もっていた。人々はそこから、長らく会えなかった家族や友人を掘り出し、何事もなかったかのように連れて帰る。ふと「私」は、昨日まで理解できなかったタミル語がわかるようになっていることに気付いた。
 アダイヤール川の橋の上で「私」は、日本語クラスの生徒・テーヴァラージに声を掛けられた。絶世の美形である程度の日本語を操る彼は、いつも授業をかき乱して「私」を困らせている。交通違反でペナルティーワークをしていた彼が熊手で泥の中から様々な物を掘り起こしていくが、その度に「私」やテーヴァラージの奇妙な過去が紐解かれていく。


 わりと序盤の、インド人の重役は飛翔で出勤する件でとりあえず1回頭がパンクした。腕に翼を付けて飛んできて、着いたら翼を管理する係の人が翼干場(よくひじょうって読むの?)に並べていく。
 数年前にインドで洪水があったニュースを見た気がする。その時の話かな?と思って読み始めていた私は、飛んで出勤するというファンタジーがなかなか受け止められなかった。何とか論理的に理解しようと何度も読み返して、やっぱり翼を付けて飛んでいるんだとわかって衝撃。インド滞在記を描いた純文学で、芥川賞じゃないのか。
 読み始めはインド滞在記と思わせられたけど、泥の中から何年も前に行方不明になった人々が掘り起こされて誰かに連れられ普通に動き出しす。さらになぜかアダイヤール川底の泥の中から次々に掘り出される「私」縁の品々、生徒達によって何度も脱線する日本語授業の話やら、テーヴァラージが子供の頃に見世物芸人父と旅していた話やら、「私」の母は人魚だったとかの回想が、息継ぎなしの感覚でどんどん起こる。どこまでが何の話か何度も見失いそうになったけど、不思議とつまらなくはなかった。
 泥から出てきたのは、人々の歩まれなかった人生が百年泥。それで全ての決着が着いたように納得がいった。私自身は良く知らないインドという国の、混沌のイメージが文字になってるように感じる話だった。
 混沌、本当にこの言葉でしか説明できない。百年泥を目の前に、全て「私」の白昼夢なんだろうけど、もしかして本当にインドの混沌なのかも、とか考えてしまって面白かった。
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