元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『スウェーデン館の謎』  有栖川 有栖
2017-07-06 Thu 01:03
スウェーデン館の謎 (講談社ノベルス)
有栖川 有栖
講談社 1995.05.08
売り上げランキング: 924,561

 作家アリスシリーズの中の国名シリーズ2作目。
 「私」こと有栖川有栖は、取材のために裏磐梯(福島県北部)にあるペンション・サニーデイを訪れた。積雪の中、見物に行った五色で、7歳の息子・流音(ルネ)を亡くしたというスウェーデン人女性のヴェロニカに出会う。彼女はサニーデイの隣にある通称スウェーデン館の主・乙川リュウの妻・ヴェロニカだった。
 お茶の時間にサニーデイの主人・迫水晴彦と共にスウェーデン館にお邪魔した「私」は、童話作家のリュウ、妻のヴェロニカ、夫婦の友人であり建築会社社長の等々力、挿絵画家の綱木淑美と懇意になる。その翌日、淑美が泊まっていた離れで死んでいた。離れの煙突が折れており、扉が少し開いていたために様子を見に行ったリュウが発見したが、積もった雪には離れに向かう淑美の足跡とリュウが往復した足跡しかなかったにも関わらず、明らかに他殺と思われた。
 前日のメンバーにリュウの母親・育子、ヴェロニカの父親・ハンス、淑美の妹・輝美、リュウの従弟で居候・葉山悠介を加えて共に警察の事情聴取を受けた「私」は、友人・火村英生のフィールドワークに再び立ち会いたいと言う希望から彼に電話を掛けた。

 雪が積もる中、夜中に離れで起きた殺人というクローズドサークルもの。プロローグで美しい夏の日に起こったルネ少年の死が意味ありげに描かれているために犯人は自然と見当がついたから、スウェーデン館の住人との仲が深まるほど悲哀が濃く感じられていく話だった。もしこの物語にルネの死がなかったら、私には火村の推理を読むまで犯人はわからなかっただろう。意図的に犯人の見当がつくよう書かれているんだろうけど、そこが凄い。
 有栖川有栖先生の作品を出版順に読んでるけど、どんどん面白くなっていく気がする。関係者の人間性が生き生きしてるし、アリスと火村の掛け合いが一層面白くなってきた。その気安さの中でも重く漂う殺人事件と、殺人事件に対して内に秘めた物がある様子の火村と、いつか火村がバランスを崩すことがあれば救いたいと思っているアリスという暗い部分がいい感じで混ざり合ってるのがいい。でもアリスがヴェロニカに横恋慕するのは、ちょっといただけないな。ていうか過去の作品鑑みても、アリスってあんまりモテないくせに女は顔で選ぶ人なんだね。そして火村はインテリイケメンなのに女嫌い。どうなんだ、その設定。
 前作は作家仲間の話だったけど、今回もジャンルは違えど作家が出てくる。アリスの・・・というか有栖川先生自身の児童文学の解説がわかりやすくて面白く、さらに創作活動について語り合うシーンも興味深かった。乙川リュウの作品『ルンネの不思議な旅』、実在したらたぶん私はめっちゃ好きだわ。読んでて共感する「女の子らしい」読み物が苦手で、自分とは無縁に近い「男の子らしい」読み物が好きだから、きっと乙川リュウの大ファンになっただろうなぁ。 
 トリックがわかりやすかったのも面白く感じられた一端だと思う。推理小説はロジカルシンキングを放り出して、何だかよくわかんないけどコイツが犯人って程度しかわからない事もあるダメ読者の私。短編ならともかく本格長編ミステリーであっさり納得いくなんてむしろ珍しいくらいなんだけど、この作品のトリックはわかりやすかった。というか、この『スウェーデン館の謎』が今まで読んだ有栖川先生の作品の中で一番面白いと思う。
 リュウとヴェロニカの罪はどれくらいなんだろうか。リュウは犯人隠避罪と証拠改ざん?ヴェロニカは突発的な傷害致死と証拠隠滅の罪かな?情状酌量の余地はありそうだし、いい弁護士さんに出会えたら軽い罪で済みそうかな。またスウェーデン館で穏やかに暮らして欲しいと思えるような、読んでて楽しい登場人物達だった。
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『羊と鋼の森』  宮下 奈都
2017-06-26 Mon 23:29
羊と鋼の森
羊と鋼の森
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宮下 奈都
文藝春秋 2015.09.11
売り上げランキング: 1,225

 第13回、2016年本屋大賞受賞作品。
 「僕」こと外村は、北海道の辺鄙な集落出身の青年。高校生の時に調律師・板鳥のピアノの調律に居合わせて深く感動し、調律師を目指す。専門学校を出て調律師となった外村は板鳥と同じ会社に楽器店に就職し、7歳年上の先輩・柳の調律に同行して修行を積んでいく。会社のピアノを何度も調律したり、皆無だった音楽の素養を埋めるためにクラシックのCDを聴き込んだりと、考え得る限りの努力を続けるが、理想の調律にたどり着くのは非常に難しいことだった。


 グランドピアノの屋根が開いた時に「森の匂いがした」と表現し、心に浮かんだ森の様子を語る冒頭から繊細で美しく穏やかな表現が際立った話だった。音楽と文学の間って感じ。これで心揺さぶるような出来事が入ってたら、ドはまりしただろうなぁ。
 調律って、ただ決まった音に合わせるだけじゃないんだね。ピアノの弾き手によって求める音の出方があって、それは弾き手にしかわからない。下手したら弾き手にもわかってない。曖昧な感覚表現を、調律師と客とのコミュニケーションの中で探っていくしかない。その表現が、音楽なのにとても文学的だった。
 でも私はちょっと肌に合わなかったなぁ。読み始めで、これ苦手なやつかも・・・と思った通り。女性が描く男性主人公って、たまにこんな感じの生気ない草食系男のになるのは、あるある話だと思う。それが物語の静かさと相まると、ちょっと退屈。静かで美しい表現の話が大きな山場を迎えた時と収束する時の感じは大好きなんだけど、残念ながらこの『羊と鋼の森』は大きな出来事もないまま終わってしまった。主人公の努力もどことなく他人事のような語りだし、職場の人もいい人ばかり。お客さんも奇抜な人はいない。ヒューマニズムが薄かった。 
 強いて言えば、外村が気に入っている双子の高校生の陽キャラが精神的な病気でピアノが弾けなくなった事かな。でも、掘り下げることなく前向きにあっさり終わった。祖母の死によって弟とのわだかまりが少し解消した事とか、長年調律しないまま弾かれていたピアノの調律後に持ち主が弾いた「子犬のワルツ」が素晴らしかったとか。うーん、どれも些細な出来事に過ぎない。
 表現も場面も穏やかで静かで美しい。読んでいて穏やかな気持ちになれるんだけど、私はもっと気持ちが揺さぶられる話が好きだから、こんなα波出てるような文学は苦手。読んだことある本屋大賞受賞作品が、ワクワクする話とか滂沱の涙が出る系の話が多かったから、変な期待もあったのかもしれない。本屋大賞ってもうちょっとエンタメ性がある物だと思ってたけど、純文学みたいなものが選ばれることもあるんだなぁ。でももし、私にピアノが弾けたらもっと感動できたのかなぁ。
 あ、点在する名文は秀逸だった。印象深かったのは女子高生・和音が「ピアノで食べていこうなんて思ってない」「ピアノを食べて生きていくんだよ」というシーン。それから、お客さんに恵まれていると言う外村に「何かに恵まれてはいない。外村の実力だ」と言う先輩の言葉。それから中盤に遡るけど、「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない」という外村の考え方は、本当に胸を突かれた。
 今もそうなのか知らないけど、私が子供の頃は「誰もが何かの才能がある。自分の才能を見付けるために色んな事にチャレンジしよう」という考え方がメジャーだった。その探し方もわからないまま大人になって、ただのダメ人間になってしまったわけだけど。「才能」が不確かな物って考え方に、そうだ!確かにそうだ!と、じわじわ納得していった。実力は「ある」んじゃなくて、付くものなんだ。才能がなくても、実力は付くんだ。チャレンジするって事が苦手な私にとって、深い感慨を呼び起こす文だった。

 最後に内容とは関係ないことであり、感じたのは私の集中力不足のせいかもしれないけど、場面転換がわかりにくくて前に戻って読み直した事が数回あった。章が途切れて数行空くのがちょうどページの境目だったりページ終わりだったりで、章が変わったのに気付かないで読み続けて違和感を覚えて読み戻す。車に乗ったはずなのに突然歩きながら話してたり、会社で話してたはずなのに客先にいたりして、あれ?ってなる。章と章の間がわかりにくいだけじゃなくて、場面が変わっても雰囲気が変わらないからしばらく違和感ないってのが原因だと思うんだよね。
 1回くらいなら目が滑ったと思ってスルーするけど、3回くらいあってちょっとイラッとした。
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『海のある奈良に死す』  有栖川 有栖
2017-05-26 Fri 10:27
海のある奈良に死す (双葉文庫)
海のある奈良に死す
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有栖川 有栖
双葉社 1995.03
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 シリーズ4作目。
 「私」こと有栖川有栖は、東京の出版社・珀友社で推理小説作家仲間の赤星楽に会った。彼は取材旅行に「海のある奈良」に行くと言って出発したが、翌日、「海のある奈良」とも呼ばれる福井県の小浜で赤星の死体が発見された。
 作品のVシネ化の話でプロダクション「シレーヌ企画」の社長・穴吹奈美子とプロデューサー・霧野千秋と会った後に赤星の死を知った「私」は、東京で可能な限り事件を調べて関西に戻り、友人の臨床犯罪学者・火村に相談した。
 赤星の元恋人で推理小説作家仲間の朝井小夜子を火村に紹介して話を聞いたが、彼女が赤星と別れたのは、赤星が穴吹美奈子に心変わりしたからだと言う。
 その後、赤星の従弟・近松ユズルが服毒により死亡した。

 アリスの新刊が『セイレーンの沈黙』、赤星の執筆予定作品が『人魚の牙』、プロダクション名「シレーヌ」はセイレーンの語源、伝説の人魚の肉を食べたように若さと美しさを保っている穴吹美奈子、八百比丘尼伝説が残る小浜、とやたらと人魚を絡ませてある。若干強引さを感じなくもないくらい、人魚だらけの話。それに纏わる歴史文化的な引用がちょっと退屈かな。
 有栖川先生2作目かつシリーズ初の旅情ミステリーなわけだけど、『マジックミラー』の時も思ったけど、有栖川先生はクローズドサークルより旅情モノの方が面白い気がする。もちろんあくまでこの時点での「今のところ」であって、デビュー30年を誇る有栖川先生のたかだか6年目8冊を作家の方向性として語るのは変なんだけど。
 アリスと火村のやり取りが今まで以上に軽妙だし、アリスの作家としての人付き合いがちょっと見えたり、火村の心の闇も垣間見えたりしてシリーズとしてキャラクターの輪郭が明確になってきて面白かった。今回の序盤はアリスが単独で積極的に情報収集をするから、いつもより頼もしく見える。事件の展開も、本格ミステリーにふさわしい流れ。今まで物語においてオマケっぽかったアリスだけど、今回は自分の職業を活かして聞き込みする辺りは有能だ。
 そんな感じで、途中までは楽しく読んでいたわけなんだけど、殺人トリックの話になった途端、滑らかだった話の流れに淀みを感じ始めた。特に、サブリミナル効果にはがっかり。それでウイスキーを飲ませたくさせるって当たるも八卦みたいなやり方はミステリー小説としてどうかと。そもそも、サブリミナル効果ってデマなんじゃなかったっけ?この年代って、まだ信じられてた?私がサブリミナル効果を知るきっかけになったトンデモ漫画『MMR』が90年代前半だったと思うから、まだ一般的には信じられてたのかな?
 さらに、赤星殺人のトリックもトリックってほどではない小手先の物だったんで二度目のがっかり。動機が嫉妬っていうのも浅いけど、実は穴吹と霧野は親子でしたっていう展開もモヤッとした。このモヤッとは、『46番目の密室』で動機が同性愛者による嫉妬という時と似てる。好みの問題かもしれないけど、ミステリー小説は事件とトリック以外は普通であって欲しい。そもそも穴吹は男関係が派手だったっぽいけど、何で赤星と付き合った時に特別に嫉妬したんだろうか。ただの噂に過ぎなかった近松まで、確かめもせずに殺したのかも謎。
 ていうか、事件に学文路が関係あるかも、って話が出たから片桐編集者が有休使って行ってくれて人魚伝説で真相きたか!?と思わせといで、こっちで事件解決って殺生じゃない?エピローグ読む限り無駄足やん。石童丸伝説とか、何のために掲載したんだ。ずっと謎だった、「海のある奈良」の真相とも関係ないし。
 そんなこんなで事件が解決したわけだけど、ラストはちゃんと事件の真相を明らかにしてから捕まるなり自害するなりして欲しかった。霧野の遺書が部分的に意味が通らず、火村が語った推理が確実に正解と言えない状態で終わっるって、そんなあやふやな・・・。
 という感じで、前半面白かったけど後半ちょっと不満。アリスと火村がレンタルビデオ屋に行くところまでは面白かったけど、レンタルしてからはモヤッと感が残るかな。
 火村が人を殺したいと渇望したのは特定の誰かを殺したかったのか、殺人そのものに興味があったのか。夜中に悲鳴を上げて起きる理由、今後わかるんだろうか。アリスは学生時代から気付いてるらしいけど、ばあちゃんこと篠宮時絵も気付いてるのかな?死別してる両親が関係あるのか、「ロシア紅茶の謎」のラストで言ってた「胸を掻きむしられる想い」をした相手か、はたまた自分自身の体験からか。まだまだシリーズ4/27だから、先は長い。つーか、シリーズ長いな・・・。
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『密室 ミステリーアンソロジー』  
2017-05-18 Thu 12:15
密室―ミステリーアンソロジー (カドカワノベルズ)
姉小路 祐
角川書店   1994.05
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「野生時代」の1994年1月号に掲載された、8人のミステリー作家による「密室」をテーマにしたアンソロジー。


「消えた背番号11」  姉小路 祐
 Jリーグチーム・関東ホワイティズに移籍したばかりの若きエース・三沢のユニフォームが、試合直前にロッカールームから無くなった。状況的に、チーム関係者の誰かが隠したとしか考えられない。入り口にはマネージャーが目を光らせていたため、密室状態となっていた。自分の背番号「11」にこだわり、他人に借りるのは絶対に嫌だと言う。試合時間になり、チームは三沢を欠いたまま出場することになった。

 「山」と言えば「川」、「密室」というと「殺人」・・・と思いがちなのに、妙に平和な話が一番に来たもんだ。窃盗になるのかな?三沢にとっては重大事件であり、間接的にその後の先週生命に関わったとはいえ、読んでて物足りなさを感じた。
 でも、とっても読みやすい話だった。Jリーグの事を全く知らないから構えて読み進めたけど、サッカー知識皆無の私にも人物関係や試合内容が理解できてとてもわかりやすかった。


「うば捨て伝説」  岩崎 正吾
 「ぼく」の祖母は、公民館の文学講座で知り合った男性から『楢山節考』の話を聞いて、かつてうば捨て山だった場所に行きたがった。その頃から、「ぼく」は『楢山節考』の夢を見るようになる。 
 実際にうば捨て山伝説の場所に行ってみると、そこは崖になっていて自然の密室かのように思えた。後日、国語教師の「ぼく」は社会教師にうば捨て伝説の事を詳しく聞こうとしたが、話し出したのは同じ土地に伝わる山姥伝説。この勘違いのせいか「ぼく」は、2つの伝説の繋がりを考えるようになった。

 「ぼく」の生活と、『楢山節考』が交錯して若干煩わしさを感じたけど、おりんが山姥伝説になる話は面白かった。いやむしろ、『楢山節考』に影響された「ぼく」の夢が面白かった。あくまで夢であって現実味はないけど、全てのリアリティを取り去って描かれたおりんと弥平の純愛に単純に感動。姥捨てという自然の摂理にも似た悲しい苦渋の風習に、空想だけど救いの末路を見出した儚さが妙に美しく感じさせられた。
 

「密室のユリ」  二階堂 黎人
 探偵・二階堂蘭子のもとに、警視庁捜査一課の山本勝正警部が事件の相談に訪れた。推理小説作家の生田百合美が自宅で殺害されたが、玄関も窓も鍵がかかった密室だった。生田百合美は口述筆記の作家だったが、録音中に殺人が起こったために犯行の一部始終が録音されていた。

 二階堂黎人も作家名と主人公名が同じタイプの作品を書く人だという事を全く知らずに読むと、二階堂(あ、作者と同じ名・・・?ん?)・・・蘭子(え?あれ?)となった。で、全く存在感ない語り部の「私」って誰だよ状態のまま終わった。夫にしては存在感なさ過ぎると思ったら、養父母の実子という立場の兄だと読後にネットで知る。
 トリックも大したことない事と証拠捏造のすっきりしなさの相乗効果、さらに登場人物がボヤッとしてることもあって、いまいち。
 私自身の勉強不足というか読書不足な点は置いといて、シリーズで読んでたらこういう短編もありと思えたのかもしれない。


「靴の中の死体―クリスマスの密室」  山口 雅也
 パラレルワールド英国の探偵士・ブル博士は、ピンクとキッドをお供にシューメイカー夫人の家を訪れた。昨夜、シューメイカー夫人の宝石が盗まれたが、犯人は三人の息子のうちの誰かだと言う。
 翌朝、シューメイカー夫人が内線電話に出ない事を不審に思ったメイドのステラ・パウエルと共にブル博士達がシューメイカー夫人の別館「靴の館」に行くと、全裸で首を吊っていた。外は雪が積もっていて、本館から別館へ続くシューメイカー夫人の足跡が残るのみ。隣の寝室では三男が睡眠薬を大量に飲んで死んでおり、当初は三男が母親を殺して自殺したと思われた。しかし死亡推定時刻はジョージの方が早く、雪のせいで館全体が密室となっていた。

 「誘拐」でもこのシリーズが載ってたけど、予備知識皆無で単品で読んでも面白い。キッドとピンクはブル博士に師事してる感じだけど、今回も解決したのはキッド。きっとシリーズ通してこんな感じで、探偵はブル博士と見せかけといて解決するのはキッドなんだろう。で、ピンクはかき回してると見せかけて居合わせた完全犯罪に重要な証拠を残す。ブル博士は威張ってるけど嫌な奴じゃないとこ、結構好きだな。
 トリック的には単純なんだけど、短編なんだからこの単純なわかりやすさがいいと思う。


「開かずの間の怪」  有栖川 有栖
 推理小説研究会のメンバーの織田が、元病院の開かずの間にから幽霊が出るという噂の真偽を確かめようという話を持ってきた。いつもの4人でその廃病院に泊まってみる事にして3階の住居部分に過ごしていたが、織田が腹痛を訴えて帰宅。そのしばらく後、一階から物音が聞こえてきた。残る3人で探索するも、あちこちで不自然な物音がする。二手に分かれて音を追うと、アリスと望月は開かずの間の隣の部屋のドアから首だけ出して笑っている男の子を目撃した。

 有栖川先生、ホラーもいけるんだね・・・。開かずの間の謎は扉の作りが特異なだけだけど、ホラー要素が予想以上にラストまでホラーだった。織田のいたずら?それにしても全然出てこないし・・・あ、やっぱ織田のいたずらだった!でも人形が違う!?というオチがちょっと怖かったけど、こういう時も冷静な江神さんは素敵。
 ただ、こういう部屋の位置関係が重要な小説って、サラッと読めないのが苦手。ただでさえ地図が読めない私が文章のみで簡単に頭に見取り図を描けるはずもなく・・・何となくで読む。で、何となくでしか理解しない。何かわかんないけど解決しちゃったって終わる。短編だから容易に再読する気になれるのは、私にとって良かった。
 ところで、「二十世紀的誘拐」もこれもマリアちゃんは出てこないのね。掲載年的にはもう登場してるはずなんだけど、もしかしてマリアちゃん休学中の出来事って事なんだろうか。と思ってたら、「僕」ことアリスは一回生と書いてあるからマリアちゃんが入部する前の話なわけだ。


「傾いた密室」  折原 一
 ファックスによる書簡小説の形をとった、『密室―ミステリーアンソロジー』の「二重誘拐」と同じ覆面作家・西木香シリーズ。
 西木に、編集部の堀口大輔が読者からの相談を伝える。星野みさきという女性が、父親が密室で殺害された謎について考えて欲しいそうだ。報酬は星野みさきの処女と知らされて、依頼を了承する。締め切りが近い西木の代わりに堀口が星野みさきを訪ねて詳細を聞き、ファックスで西木に知らせる。
 地盤の悪い崖に建った屋敷で使用人と2人暮らしの星野一郎だったが、父親の死後、弟の二郎が遺産相続の件で訪ねてきた。電話で一郎の様子がおかしかったために実家に戻ったみさきだったが、夜中に書斎から一郎の叫び声が聞こえてきた。鍵が掛かっていたために斧で扉を壊して入ると、倒れた脚立の傍で一郎が死んでいた。二郎が怪しいと考えたみさきだったが、脚立から落ちて頭を打った事故として処理された。

 順番通りこちらを先に読んでいたら、「二重誘拐」ラストの西木のしたたかさが受け入れられたかもしれない。女の要求を頑なに拒んだ小説家魂がストイックに思えてたとこに身代金窃盗だったから驚いたけど、この作品では冒頭の下心とラストのエロオヤジっぷりで、西木の人間臭さがはっきりと描かれている。年齢不詳だから、オヤジかどうかは不明だけど。
 堀口からのファックスによる事件の情景描写が不自然に細かすぎてモヤッとするけど、話は面白かった。事件の謎は解け、西木が書き終わった小説は「傾いた密室」。つまりこの出来事を作品にした、というオチも良かった。
 ところで星野みさきからの手紙の最初の作家像、処女作『天駆ける木馬』というタイトル、ウィキで読んだ経歴的に、西木香って北村薫か?いや、わかんないけど。


「ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?」  法月 綸太郎
 私立探偵のリュウ・アーチャーは、ジェラルド・キンケイドから孫娘アリスの行方捜索を依頼される。アリスの部屋で見付けた手掛かりを辿って薬物中毒のSF作家フィリップ・デッカードの「隠者の家(ハーミット・ハウス)」を訪ねた。アリスがボーイフレンドのピート・ケイルが復讐から「隠者の家」に連れて行かれて薬物中毒にされ、デッカードに犯されているところを連れ出したアーチャーだったが、翌日デッカードが鍵の掛かった書斎で死んでいるのが見付かった。

 私立探偵が手掛かりを辿っていくところは面白かったんだけど、アリスが見付かってからは終始胸くそ悪い。で、ラストで血縁関係が入り乱れ過ぎてわけわからなくなる。警部が主人公に重大な事実を突きつけるも、誰だっけそれ?状態。で、胸くそ続き、人間関係で混乱、挙句に語り部である主人公が犯人というラストにモヤッ。
 で、密室トリックが意味不明のまま。アーチャーが体を横にするだけでドア下の隙間を通れたってどういう意味?ていうか、ロス・マクドナルドって誰だ。黄色い部屋って何だ。教えてGoogle先生。あ、ロス・マクドナルドってアメリカのハードボイルド作家で、リュウ・アーチャーって彼の作品の主人公なのね。それ以外の事は意味不明のまま。ロス・マクドナルド作品を読んでたら、何かわかるのかな?肝心なところがわからないこの感じ、何か嫌だ。


「声たち」  若竹 七海
 記者である春田俊朗が、妹夫婦の小柳みちる・丞太郎に事件の相談に来た。容疑者の6人は殺意が明確だったが、離れた場所で一緒に小型タクシーから6人一緒に降りるところを目撃されており、その後行われた会議を録音していたためにアリバイがあった。
 丞太郎が考える様々な密室トリックを次々にそれを打ち破るみちるだったが、テープを起こしたシナリオを読んですぐにみちるが事件の真相を解く。

 丞太郎が考える短い密室トリック、面白かった。それを間髪置かず小馬鹿にしながら解いて見せるみちるの歯に衣着せぬ言い方も好き。会議テープ自体は退屈ながら終わった瞬間にみちるがスパッと解き、ラストの一言「小型タクシーに、大人五人は乗れない」に、ああ~と感心してしまうくのも小気味良かった。
 テンポも良くて、いい夫婦だなー。面白かったです。


 読む順番を間違えたっぽいけど、先月読んだ「誘拐」とは、「色んなミステリー作家がテーマに沿って短編を書く」シリーズシリーズ的な感じ?でも全体的にはこちらの方が面白かった。短さが活きてる作品も多くて、最後の話が特に秀逸。
 それにしても、Jリーグ発足やらファックスやテープの存在やら、個人的にはノスタルジーを感じて感慨深かった。よく考えたら、出版年が四半世紀近く前か。ちょうど第何次かは知らないけどミステリーブームだった頃か?あれはマンガだけだったんだろうか?あの頃は恥ずかしながらラノベにハマってたから、よくわかんないけど。
 ミステリーに限らず古い作品の背景を見て、変わったところと変わらないところに目を向けるのもちょっと楽しく思える年齢になったなと思う。さらに、今読んでも遜色皆無の作品に巡り合えた時の感動はひとしおだと思う。
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「作家アリス」シリーズ
2017-05-16 Tue 23:07
『スウェーデン館の謎』
『海のある奈良に死す』
『ロシア紅茶の謎』
『ダリの繭』
『46番目の密室』
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