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元司書による読書備忘録ブログ。思ったことは全部書き、何様気取りの感想だったり平気でネタバレしたりします。
『しんせかい』  山下 澄人
2018-09-14 Fri 14:31
しんせかい
しんせかい
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山下 澄人
新潮社   2016.10
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 高校を卒業してアルバイトをしていたスミトは、とある有名脚本家【先生】が作った俳優と脚本家の養成所に二期生として合格した。【谷】と呼ばれるそこで、費用は一切かからない代わりに自給自足や近隣の農家の手伝いをしながら一期生と共に生活をしていく。


 田舎で自分達の住処を作ったり馬の世話をしたり近隣の農実況家を手伝ったりの共同生活の中で演劇や脚本について学ぶって、正直よく理解できない。芸術活動の一環と思えば、まあそういうもんかと思わなくもない・・・かな?
 共存する仲間達、農業、演劇の勉強などの体験に何一つ深さはなく、さらっと上辺をこなしていく。何となく暖簾に腕押し的な性格のスミトは、ちょっと発達障害を疑うほど変な思考の中で自己完結している。読みやすいけど面白くはない。けど、ちょっとダラダラした語りがイラつくような癖になるような文章だと思う。話下手な人が無理やり実況中継してるような?そう思うと、おしゃべりだけど話下手で人間的深みゼロの私は途端に親近感が湧いてきた。
 大して面白くもない生活の様子が続いて、一期生卒業からの三期生を迎え入れる直前・・・からの、え?なに?夢オチ?いや、ちゃんと1年過ごして、もう1年過ごしてる?と、理解不能のまま次の章「率直に言って覚えていないのだ。あの晩、実際に自殺したのかどうか」へ。あれ?2章目は別の短編?と思いきや、スミトが【谷】の入所試験を受けるために新宿駅付近で前泊する話になる。
 これがまた、目の回るような行ったり来たりの思考をしていて、正直キ印かと思う。アライグマを飼っているホームレスが練炭自殺をする話にちょっと緊張するも、いつの間にか歌舞伎町に来ていて本当にどうなってんの、これ。
 読み物としては頭を抱えたくなるけど、でもやっぱりこの文章は私の思考をだらだら書き起こした時に似ていて、やっぱり親近感を覚える。たまに自分で自分に、だから何?ってツッコんでしまうけど、それに似た苛立ちのある本だった。私的には妙な同調と、同類嫌悪が混じった感じだったけど、まあ面白くはないかな。純文学の芥川賞にしては読みやすい、だけどお前の頭の中が新世界だって言ってしまいたくもなる。
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『銀河鉄道の父』  門井 慶喜
2018-08-30 Thu 11:55
銀河鉄道の父 第158回直木賞受賞
門井 慶喜
講談社  2017.09
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 明治中頃。京都へ単身赴任していた宮沢政次郎は岩手県の花巻にある実家から、玉のような男の子が生まれたという電報を受け取った。政次郎不在の間に家を守っていた父・喜助から、子は政次郎の弟が「賢治」と名付けたと聞かされる。
 跡取り息子として厳しく育てたが、非凡ながら家業の質屋に向かない人間に育った賢治。政次郎は憂い悩みながらも、賢治が思うままに進学をさせ、賢治が生きる道筋を作り続けていった。
 かの宮沢賢治の生涯を、父親の視点から描いた物語。


 死んでから有名になった人の日本代表のような宮沢賢治。正直大して好きではない私でさえ、「かたゆきかんこ しみゆきしんこ 狐の子ぁ嫁ぃほしいほしい」は小学校の教科書で読んで以来何十年経った今でも頭から離れないし、「どっどど どどうど どどうど どどう」っていう聞いただけで自然現象が荒れ狂う様が浮かんでくる独特な表現は凄いと思う。『雨ニモマケズ』は面白みのない人物像のようで好きじゃなかったけど、政次郎による「言葉遊びをしていただけ。『そういう人間』に私はなりたい』、つまりなっていない人間による言葉遊び」という解説に初めて納得がいった。きっと賢い人や心がきれいな人は、ちゃんと解釈を見付けて宮沢賢治を好きになっていくんだろうなぁ。
 政次郎は明治の父親像とはかくやという立派な人物ながら、いざ我が子が病に伏すと周囲の反対を押し切って付きっきりの看病をする父親だった。喜助に「質屋に学問は必要ない」と言われながらも、賢治の望むままに進学をさせて援助を惜しまない。それに対して賢治は、賢いながらちょっと心の弱い、それでいて頑固な青年に育っていった。
 日本の文学界からすると宮沢賢治は偉大な人ながら、あまり知識のない私は、貧しい山小屋で自給自足を営みながら児童文学を追求し、病に倒れた人だと思ってた。この作品でボンボンだと知って、ちょっと驚いた。読めば読むほど金持ちのドラ息子的なイメージで、対して政次郎の立派な事この上ない。ただ、賢治の方にも偉大な父を持ってしまった苦悩や反発があったと知って、はっとさせられた。物事の一方だけを見て批判するのは私の悪い癖だよなぁ。確かにこの父親は立派過ぎる。子の危篤に直面してまでも、遺言を問い書き取ろうとする政次郎の、悲しくも取り乱さない姿は本当に壮絶だと思った。賢治の反応の方が普通のはずなのに、情けないと感じてしまうほど立派だった。でも政次郎も内心は終始迷い、案じ、憂いていた。だから、弟の清六が質屋ではないながら新しい事業を始めて軌道に乗った時は、私まで心底安心した。
 賢治の死後、賢治の作品が徐々に認められていったことは有名な話。でも、こんなに死後間もなく認められていたんだ。賢治の分身とも言える作品が世に出て人々に愛されていくのを政次郎が目の当たりにできて良かった。そういうい意味でも、半永久的に残っていく「文学」って本当に凄い。
 とても表現力に富んだ作品で、政次郎の立派な父親像や憂い、子を亡くす親の悲しみが深く痛いほど伝わってくる。宮沢賢治の生涯であることを抜きにして、物語として読んでも十分に面白かったと思う。
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『流星の絆』  東野 圭吾
2018-07-27 Fri 13:35
流星の絆
流星の絆
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東野 圭吾
講談社   2008.03
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 小6の功一、小4の泰輔、小1の静奈の3兄妹は、夜中に流星群を見るために窓から家を抜け出した。天気に恵まれず流星群は見られないまま帰って来た3人だったが、家で両親が殺されているところを功一が発見する。外で待っていた泰輔は、裏口から出る見知らぬ男を目撃していた。
 3人は施設に引き取られ、犯人が見付からないまま月日は過ぎて14年後の時効間もない頃。3兄妹は功一の頭脳、泰輔の演技力、静奈の美貌を武器に詐欺グループとして助け合いながら生きていた。
 稼業が上手くいっているうちに手を引こうと、功一は有名洋食店「とがみ亭」の跡取り息子・戸神行成を最後の標的に選ぶ。計画はいつも通り順調だったが、偶然行成の父親・政行を見た泰輔は14年前の事件直後に家の裏口出て来た男だったと言い出した。また、静奈も創業者オリジナルのハヤシライスが父親の洋食店「アリアケ」の物と酷似していることに気付いて動揺する。
 何とか証拠を掴んで時効前に警察に逮捕させようと画策する中、功一と泰輔は静奈が行成に本気で惹かれ始めていることに気が付いた。


 しっかり者で頼もしい功一、兄を尊敬しつつも少し弱いところのある泰輔、兄達に可愛がられている静奈。3兄妹の微笑ましい冒険が終わった直後の惨劇が衝撃的で、一気に引き込まれた。特に功一の、しっかり者長男であるが故にこんな時でもしっかりせざるを得ない様子に胸が痛む。と同時に、自分自身も折れそうになりながらも弟妹の事を心配している功一を、状況説明だけで感じさせている東野さんの文章力が凄い。
 時効廃止制度が施行される前に書かれた本で、時効成立直前の焦燥感や絶望はそう多く書いていないのに感じさせられる。静奈の恋心も密かに静かに忍び寄って来るし、時々起こるトラブルにはしっかりヒヤッとさせられ、政行は殺人犯らしからぬ泰然自若とした人格者だと思ってたらやっぱり犯人じゃないし、偽ダイヤを買って「僕もあなた達と絆で繋がれていたい」には、ただただ感動。やっぱりベストセラー作家って凄いなって改めて思った。
  でも、真犯人はちょっと唐突過ぎたかなぁ。思い返せば伏線は随所にありはしたけど、え?そっち?お前が出しゃばるんかい!みたいな。真犯人がいたおかげで、静奈は幸せになれそうなんだけどね。とは言え詐欺犯罪者だからコソコソ生きて行かないといけない・・・かと思いきやそこんとこも、きれいに解決。円満な幸福に、安堵した。願わくば、功一と泰輔にもいつか幸せになって欲しい。
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『月の満ち欠け』  佐藤 正午
2018-06-19 Tue 10:57
月の満ち欠け
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佐藤 正午
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 15年前に事故で妻子を亡くした小山内は、娘・瑠璃の記憶を持つという7歳の少女・緑坂るりに会うために八戸から東京へやって来た。小山内は前世の記憶を垣間見せるるりに苛つきながら、彼女らと共通の知り合いである三角の事を思い出す。
 八戸の実家で母と暮らし、連れ子のいる恋人もいる小山内に、亡くなった妻の友人の弟・三角という男が訪ねて来た。彼は姉の友人の夫として訪ねたわけではなく、30年以上の長い物語を語った。
 三角が学生時代にバイトしていたレンタルビデオ店で、ひょんなことから瑠璃と名乗る年上の女性と知り合った。忘れられずに数少ない手掛かりの場所に通って再会を果たした三角は、人妻と知っても彼女にのめり込んでいく。もし死んだらもっと若い美人に生まれ変わって再会すると言った瑠璃は、その1週間後に電車のホームに転落して亡くなった。三角が初めて知ったフルネームは、正木瑠璃だった。
 彼女は小山内の娘・瑠璃に生まれ変わり、18歳になって三角を訪ねて行く途中で事故死。その後も別の胎児に宿り、母親に瑠璃と名付けるよう夢で語りかけ、生まれた後は7歳で原因不明の高熱からの回復をきっかけに正木瑠璃の記憶を少しずつ思い出していくのだと言う。


 物語の始まりが男女の揉め事調なせいで、物語の方向性をミスリードされてしまった。離婚した妻と子供?いや、婚外子を巡る問題?え、まさかのオカルト!?みたいな。時系列も視点もあちこち行き過ぎて混乱しかける。でもちゃんと考えれば理解できるように描かれている上に、構成の緻密さに鳥肌立つ。全体の主観が瑠璃でも三角でもなく、小山内氏という点も一番客観的で、得体のしれない空恐ろしさに加担していると思う。
 小山内ファミリーの話、三上の学生時代、正木の身を持ち崩してからの立ち直り。その間にちょいちょい挟まれる小山内氏とるりのやり取り。生まれ変わった先が全くの他人じゃない点も、場面展開があいまいな部分も混乱に加担し、何度か戻り読みして何とか理解できた。えーっと、三角青年と不倫した瑠璃は死後、三角の姉の友人の娘・小山内瑠璃に生まれ変わって18歳で事故死。で、正木が勤める工務店の娘・小沼望美に生まれ変わって7歳で事故死。で、小山内瑠璃の親友・緑坂ゆいの娘・るりに生まれ変わった。・・・なんだこの人間関係。
 何度死んでも、三角に会うために月の満ち欠けのように生まれ変わる。その執念が妙に淡々と描かれているところが、切ないと言うより不気味だった。どうでもいい描写は丁寧で美しいけど、三角の恋心や生まれ変わった瑠璃も、求めて止まないというより運命に身を任せているような感じ。出会えないもどかしさもないし、やっと会えた歓びも意外に静かだ。この独特な起伏のなさは、ドラマチック過ぎるより好きかも。
 残念なのは、瑠璃がちょっと思慮が浅い点かな。正木瑠璃は三角の前では掴みどころのないイメージだけど、夫・竜之介の前では大人しくて従順で何がしたいのかよくわからない。でもまあ、そういう女性はよくいるとは思うし、引っ張っていくタイプの男性と結婚して思考停止してる場合もよくある。けど、小山内瑠璃は、正木瑠璃の27年分の記憶があるならもっと要領良くやれるんじゃないのか。ランドセルのまま千葉から東京まで行くとか、高校卒業するまで父親の言いつけを守って三角に会いに行かないとか。次の小沼望美も、三角に連絡するために単身で正木のとこ行くとか、駄目でしょ。緑坂るいは成功したけど、その手段も27+18+7+7年を生きた女性のやり方とは思えない。で、やっと出会えたけど7歳の少女と50歳過ぎた男性の運命の再会。きっついわー。大騒動の挙句の再会に、三角にベタつくるり。これ三角、建設会社の部長を懲戒免職になるんじゃなかろうか。
 この、美しい純愛じゃなくて執着による歪んだ愛に思える点は、さすが直木賞受賞作だと思う。でも、終盤に出てきた小山内氏の妻・梢も、小山内氏の恋人の娘・みずきに生まれ変わってる可能性の部分は、妙に我に返らされて興ざめだった。そんなにあちこちに生まれ変わりがあってたまるかって。
 これ、男性じゃないと書けないと思う。年若い女性じゃこの執着は描けないと思うし、私は今まで大切に育ててきた我が子の中身が別の誰かに乗っ取られてるとか考えたくもない。7歳の娘が、50歳超えた男を女として愛してるとか醜悪だ。あと10年後に同年代の彼氏との他愛のない事で悩む陽であって欲しい。小山内氏の妻は、一体どんな気持ちで娘を三角に会わせようとしていたんだろうか。
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『影踏み』  横山 秀夫
2018-05-23 Wed 10:12
影踏み (祥伝社文庫)
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横山 秀夫
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 深夜、寝静まった民家に侵入して窃盗を働く「ノビ」。A級のノビ、刑事から 「ノビカベ」と呼ばれる泥棒・真壁修一が出所した。出迎える者はいなかったが、彼の内耳には双子の弟・啓二の声が響いている。
 15年前、空き巣で警察に追われるようになった啓二を嘆いて母親が家に火を放って無理心中を起こし、助けようとした父親も命を落とした。以来、真壁はノビとして生きるようになり、啓二は真壁の耳の中で真壁を助ける存在となっていた。
 2年前に捕まった事件で、真壁は忍び込んだ家で違和感を覚えていた。その違和感の正体を探るため、真壁は自分の起こした事件の周辺について調べ始める。その他、計7作の連作短編シリーズ。


 悲痛な人生を歩みながら、頭脳明晰で寡黙な真壁がストイックでかっこよく思えて、リアルな犯罪シーンに手に汗握り見付からないで欲しいと願ってしまった。
 横山秀夫さんと言えば刑事ものだけど、これは犯罪者側を描いている。さらに、主人公の中に死んだ双子の弟が生き続けているという、私が知ってる横山さんの中では斬新な設定だった。
 母親が弟を殺したという過度のストレスから真壁の精神が作りだした人格なのか、本当に啓二の霊がそこにいるのか。意思の疎通はできるけど、思考は共有しないから完全に別人格なのは確かだ。真壁をよりも賢かった啓二の抜群の記憶力は発揮されてるけど、真壁自身も大学法学部を現役で合格する実力の持ち主だったんだから元々真壁の中に眠っていた能力が無意識に発揮されてる可能性もあるし・・・。
 かつての恋人と思しき安西久子も、辛い立場だ。幼馴染の双子の兄弟から言い寄られて片方を選んだらもう、もう片方がグレた挙句に親が無理心中。自分が選んだ方も犯罪者になり、刑務所へ。刑期を終えて突然訪ねて来て、やっぱり好きだと自覚していると彼は自分を突き放す。こんなに健気な久子が愛したかつての修一は、どんな男だったんだろうなぁ。
 唯一の光だと思われる久子の存在も遠ざけて、社会の暗い部分を歩く真壁はどこに向かうんだろうか。私はオカルト抜きで、啓二は真壁が作り出した幻なんだろうと思って読んだ。そうすると、久子と結ばれて欲しいと願っている啓二の気持ちは真壁の本心なんだと思えて、それでもノビを続けずにいられない真壁の心の傷が計り知れなくも辛い。
 そんな私に、ラストの啓二の告白はちょっとした混乱をもたらした。母親は啓二を逃がそうとしたけど、啓二は逃げずに母親と共に死ぬことを選んだ。つまり母親が啓二を殺したんじゃなくて、啓二が母親を追い詰めて死という形で独占したということ。これは啓二にしか知り得ない事柄なわけで、耳の中の啓二は本当に霊魂だったってこと?いや、真壁の想像がこのやり取りを生んだだけ?
 返事をしなくなった啓二は、消えたんだろうか?どこまでもついてきた影って、啓二なんだろうか、それとも心の奥底では啓二を憎んでいた真壁の本心なんだろうか。別人格か霊魂かは結局明らかにされなかったけど、読み終えたら霊魂であって欲しいと思うようになった。
 横山さんの丁寧だけど無駄のない研ぎ澄まされた表現力、久々に読んだけど相変わらず凄い。
別窓 | [や行の作家]横山 秀夫 | コメント:0 | トラックバック:0 |
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